焼き肉の熱血遊び日記

漫画アニメ特撮カードゲーム大好きな男の趣味ブログ。

第1話 覚醒のナイトメア

<前書き>

5話ほどオリジナルの世界の話をやってから5D’sの世界に行きます。なので本家のキャラが登場するのは6話以降になります。

 

<本文>

 

「闇の扉は開かれた」

 何もない草原。マントをはためかせ、笑みを浮かべながら、彼は目の前の敵を見据えていた。

「貴様は俺の心の領域を侵した。よってゲームを受けてもらう。闇のゲームだ」

 敵とは影。最近どこからともなく現れ人を襲う怪物、人はそれらをデュエルシャドウと呼んでいた。
 大地から、数十枚の石版が飛び出す。それらは宙を舞い、男の元へ。石版が砕け、中から出現するカード。それらが彼のディスクに装填される

「貴様は神が産み落とし賜うた命ではない。あるべき姿に還る時が来た」
「……?」
「つまり、悪夢タイムということだ」

 決闘─デュエル─。それは文字の通り、人の運命を決する闘い。ボクたちデュエリストはいつだってそれに自らの運命を託して、いや、ちょっと待っただ。これでは意味が分からない。これはボクが長い話をする時によく突き当たる問題なのだ。つまり、どこから始めたらいいかという問題である。
 よし、では少し時を巻いて戻し、事の発端から始めるとしよう。そう、それはオムライスに無性に飛びつきたくなるような午後だった。

 


「ハハハハハハ! 俺のターン!!」

 当時、彼は相当エキサイトしていた。ボクは本を読んでいたのでデュエルの内容はよく分からなかったが、彼が人参を追っかけてる馬みたいだということはよく分かった。

「く、くっ……!」
「『古のルール』。これにより召喚!」

 対戦相手の方へ同情の眼差しを送ってみたが、もはや手遅れのようだった。机から金色の龍が現れ、周りで静かに観戦していた子どもたちも目を輝かせる。

「『ゴールデン・レジェンド・ドラゴン』!!」

 うん、これは絶対的にかっこいいと言えるシロモノだ。その名の通りの黄金のボデーが太陽の光を受けて眩く輝く。その眼が、眼前の敵を睨む。

「ひ、ヒッ!!」
「終わりだ。ゴールデンデスティニージャッジメントぉ!!」
「うわぁぁぁっ!!」

 最強クラスの攻撃力を持つドラゴンが、閻魔様みたいに敵の全てを蹂躙する。

「ははははは! 俺の勝ちだ! あーっはっはっはぁ!!」

 言わなくても分かることを叫びながら、ドラゴン使いの少年が誇らしげに席を立つ。街中の喫茶店にセキュリティーの制服を着て来ているのだからセキュリティーなのだろう。それにしても若い。16くらいだろうか。

「では、セキュリティ権限において貴様を連行する! 来い!」
「れ、連行!? ちょ、ちょっと待ってくれ! 俺はただ」
「貴様のマナーの悪さは俺の癇に障った。それ以上の理由は必要ない。話は署で聞く、いいから来い!」
「待て」

 嫌がる相手の腕を掴み店から出ようとする少年を、ボクの隣に座っていた青年が呼び止めめる。少年は青年を睨む。なんだてめぇ、と目が言っていた。

「なんだてめぇ!」
「ハンバーグが残っている」
「あ?」
「食え」

 少年は少したじろぐ。青年の目が鋭く恐ろしかったからだろう。少年は何か言いたそうな顔をするが、やがてさらに残ったハンバーグを口でかっさらった。素晴らしい早業だった。

「ど、どうだ! これでいいだろ!」
「……」
「な、なんか言えよ!」
「もうお前と話すことはない。消えろチビ」
「〜!」

 少年は薔薇みたいだった。つまり真っ赤で美しいということだ。幼いが紛れも無い美形だ。それだけに身長がコンプレックスだったのだろう。恥で真っ赤になって、プルコギみたいにプルプル震えていた。

「お、覚えてろ! うわぁ〜ん!!」

 それを最後の挨拶とし、彼は店を去った。いやはや、なかなか印象的な少年だった。あの若さであの眼はちょっと普通ではない。道ばたに中身が全部入ったままのカップ麺が捨てられてるくらい普通ではない。地域によっては無くもないことだろうと思われるかもしれないが今はそういう話はしてないのでフィーリングで理解して欲しい。

「ふーん、金色 遊旗くんっていうのでござるか」

 彼の警察手帳を開くと無論名前が載っているわけなので、彼の本名を知ることができた。所属はデュエル部隊とある。なるほど、ならばデュエルの強さ、そしてデュエルで物事を解決する思考が強いのにも納得がいくというものだ。ちなみにデュエル部隊とはその名の通りデュエルが強い人たちによって結成される部隊で、犯罪者をデュエルで拘束するのがお仕事だ。

「……さて、あの少年、どう思うでござるか?遊黒くん」
「知るか」

 そう冷たく、冷やし中華みたいに冷たく返したのが、さっき遊旗くんを半泣きにした彼だ。白髪だがジジイという歳にはとても見えない、せいぜい20前後といったところだ。その頂点と対比するために選ばれたのかのような黒いシャツとズボン。シャレた装飾アクセサリーの類い一切なし。気難しいムッツリ野郎であることに疑いの余地はない。

「大体なんでお前が彼の手帳を持っている」
「拾ったのでござる」
「人の物を胸ポケットから取るヤツは嫌われやすい。ほどほどにしておけ」

 おい、会話しろよ。おっと、思わずそう、温厚なこのボクをしても思わせる本質的な冷たさが、彼にはあった。この冷たさははじめて会った時から変わらない。だがしかし、まるで全然、それだけじゃあないんだ。このボクが保証しよう。
 見るべきところは見たので手帳を閉じ、ボクは席を立つ。

「さて、この手帳を彼に返してこなくちゃね」
「マスター、地獄オムライスひとつ」
「……え?」

 ボクが店を出ようとした矢先、ムッツリは驚くべき発言をした。ボクは思わず彼に問いたださずにはいられなかった。

「き、君、今地獄オムライスって言わなかったかい?」
「言った」
「い、いや、やめといた方がいい。君は知らないんだ。あれはちょっと君には無理だ」
「へイラッシャイ!」
「さてな。食ってみなきゃ分からん」

 彼の気持ちはおおいに分かるというものだった。地獄オムライスは制限時間内に食べきればお代がチャラになる。きっと彼はそれを目当てにあんなシロモノを注文してしまったのだ。だが断言しよう、彼のその判断は断然間違いなのだ。あれは人間の食用に適していない。ひとたび口に入れればその名の通りの地獄の空が広がり、灼熱のマグマが地を走り、安らかな緑は死に絶える。つまりあれはそういうシロモノなのだ。

「無茶でござる!」

 彼の元にそれが運ばれる。彼は淡々とそれを口に運び。

「……」

 その顔は世界の真理を見て来た者の顔だった。そして、数秒の、しかし長く、体感にして永遠と思えるほどの沈黙のあと。

「……うまいな」

 彼の声が、店内に響いた。

 

「よこせ……カードをよこせぇっ!!」

 セキュリティの制服に身を包んだその男、金色遊旗が、さっき店から連れ出したオッサンに壁ドンしていた。壁ドンと言っても胸キュンムーブではなく脅迫ムーブの方であるので、彼の性癖への心配はご無用である。そもそも、オッサンは少し素行が悪かった程度でセキュリティーに連行されるほどの悪事はしていない。遊旗は最初から彼をセキュリティーに連行するつもりはなく、カードを強引に奪うために人気の少ない場所に連れ出したいだけだったのだ。遊旗はオッサンの胸ぐらを掴み、壁に叩き付ける。オッサンがうめく。

「うっ……!」
「寝るな! カードをよこせ……どんな敵だって倒せるだけのカードを! 俺によこせぇ!!」
「美しくないなぁ」
「っ!?」

 声の方へ振り向けば、そこには不敵な笑みが立っていた。赤い衣装に身を包んだ男。遊旗はそれを忌々しげに見つめる。

「……天……新海……!」

 天新海(あまつ しんかい)。それがその男の名だった。世界的大企業リバースコーポレーションの若社長にして、過去にデュエルチャンピオンになったこともある凄腕の決闘者だ。
 遊旗は新海に対して良からぬ感情を持っていた。なので彼への口調は厳しい。

「何の用だおまえ!」
「そうカリカリするな。フフフ、今日もお前に良い話を持って来てやったのだ」

 そう言い、新海は一枚の写真を遊旗に投げつける。遊旗は何か言いたそうな顔をするが、ひとまず話題に乗る。

「これは……さっきの!」
「知っているのか?」
「あぁ、俺をチビ呼ばわりしやがった野郎だ! 許せねぇ〜!」
「そうだろうそうだろう。俺も彼には多少恨みがあってね」
「それはどうでもいい。で、こいつがどうかしたか?」

 そこに映っているのは白髪の青年。たった今オムライスを食している、そう、あの男である。新海は嫌な笑みを浮かべながら語り出す。

「名は終 遊黒(おわり ゆうこく)。素性不明。分かっているのは、我が社のレジャー施設を破壊して回っている悪党だということだけだ」
「レジャー施設、ね」
「許せんだろう?」
「はっ!」

 遊旗が「はっ!」と言ったのには理由があった。新海のリバースコーポレーションが経営しているレジャー施設は数えるのも嫌になるくらいあるが、その大半は黒い噂に満ち満ちていた。不当労働・人身売買・事件事故、挙げていけばキリがないほどだ。しかしリバースコーポレーションは治安維持局、つまり警察組織とも深く繋がった企業であり、その漆黒の内情も看過されて来たというのが現実である。もちろん一警官でしかない遊旗にもどうしようもできない案件なので彼はこの件についてあまり深入りしないようにしていた。彼は権力の犬だった。だが反感は少なからずあったので「はっ!」である。
 新海は「はっ!」については微笑んでスルーし、話を続けた。

「単刀直入に言おうか。君も忙しいだろうからね。この遊黒という男、神のカードを持っている」
「……なっ……!?」

 突然の情報に遊旗は絶句する。この絶句は妥当であった。
 神のカードとは、デュエルモンスターの頂点に座する存在。それらを束ね、神の手札を揃えしもの、決闘王の称号を得る。来年辺りに教科書に載る予定なくらいの常識である。
 遊旗が求める力。神のカードほどそれに相応しい物はない。遊旗は我を忘れ、乞うように新海に歩み寄る。

「か、神のカード……神のカード! ほ、本当か!?」
「本当さ。喫茶店に反応がある」
「お、俺をだまそうとしてるんじゃないのか!?」
「いつも言っているだろう。俺は嘘はつかない主義だ」
「神のカード……それさえあれば! こうしちゃいられねぇ!」

 遊旗が走り出すのとオッサンが思わず声を上げたのは同時だった。

「あ、あの、俺は?」
「お前なんかもうどうでもいい! 消えろ!」
「えぇー」
「行ってらっしゃい。健闘を祈るよ」

 そしてそこには新海とオッサンのふたりが残った。言うまでもないが新海は高価な服を着ていて、身につけているものも高価なものが多い。対してオッサンは総合的に見てボロボロだった。なのでオッサンにちょっとした良からぬ感情が生まれるのは是非もないことだった。

「へへへ、兄ちゃん良い服来てるじゃねぇか。ていうかどっかで見たことあるな」
鑑識眼があるんだね。良いことだよ。美しさが理解できない人間なんて猿以下だ。そう思わないかね?」
「あぁ、鑑識眼があるんだよ。だからよぉ、そいつが欲しくてたまらねぇんだよなぁ……!」

 オッサンの手にはナイフが握られていた。新海は横目でそれを眺め、薄い笑みを浮かべた。

「君は知っているかな?治安維持局と我が社が一心同体な理由。我が社がこの世界に不可欠な存在となっている理由を」
「……?」
「それはデュエルモンスターがこの世界に不可欠であり、デュエルモンスターのカードを生み出せるのが我が社だけだからだ。では、なぜデュエルが不可欠なのか?」
「……」
「それは……出るからさ」

 新海が銃の形をした決闘盤から何かを地に撒く。すると地面から、何かが出た。男の声にならない声が酸素に掻き消される。
 それは黒い影。それはやがて人の形に近づいていき、トカゲみたいな頭部を持った怪人になる。男の驚愕を見て新海は愉悦する。

「アハハハハハ! なかなかチャーミングだろう? この正体不明の影は人を闇に落としてしまうのさ」
「う、う、うわぁぁっ!」

 男は恐怖のまま、力いっぱいにナイフをそれに突き刺す。しかし微動だにせず。

「逃れる術はデュエルに勝利するのみ。勝てば大丈夫だ。さぁ、頑張りたまえ」

 男は震えながら決闘盤を構える。デュエルが始まる。影の強さは圧倒的だった。
 結果を端的に言えば、男は敗れ、影が勝利した。

「負けてしまったね。では、罰ゲーム!」

 男は影に捕食される。そして影は、その存在感を増す。男の肉体という器を手に入れ、新たにひとつの個としてここに誕生したのだ。この段階に至った存在のことを新海は「デュエルシャドウ」と呼んでいる。シャドウは不定期で街に出現し多くの人々を闇に落としている。その出自は謎に包まれている。
 新海はシャドウの誕生を喜び拍手する。その姿を鑑賞し。

「醜いなぁ。でも光栄に思っていい。君は真に美しき存在の礎になったのだからね」
「ウ……ア……」
「今ごろ遊旗が神のカードを手に入れるためにデュエルしているだろう。彼の勝利を信じないではないが俺は慎重でね。保険として君も送り込んでおく。力づくでも何でもいい、神のカードを奪え」
「ガ……ア……」
「ふむ。かすかに理性があるか」

 遊旗のように一目散に走り始めるのを期待していた新海は、なかなか言うことを聞かないシャドウに対して苛立ちを覚えた。しかし、彼はそれ以上は動じなかった。自分の人心掌握術に自信を持っていたからだ。優しく囁く。

「言うことを聞かなければ、君を殺す」
「……ウ……?」
「家族も殺す。いるならば恋人も。友人も親しい順に。俺の気が済むまでな」
「……」
「疑っているのかい?安心したまえ」

 新海は笑った。そして、その口癖を風に流す。

「俺は、嘘はつかない主義だ」

 

──その頃──

「いやぁ〜、あの地獄オムライスのウマさを理解してくれる人がいるとは! オジさん感激ぃ!」
「これまで味わったことがない味だった。辛さのその先、新しい世界の扉が開く音が……俺には聞こえた!」
「分かってるなぁあんた! ちょっと何言ってるか分からんけど! あ、そうだ、今度出そうと思ってる新メニュー、試食してみてくれよ!」
「いいんですかぁ!? えへへ、じゃあ早速」
「終遊黒ぅ!! カードをかけて俺とデュエ」
「うるせぇーっ!!!」

 愛すべきこの喫茶店の店主による飛び蹴りが、突然来店された金色遊旗くんに決まる。年齢を感じさせない見事な芸だった。テレビや漫画でよく見るが実際に見たのははじめてだ。遊旗くんはまるで意味が分からない旨を表明する。彼は勢いよく吹き飛ばされそれなりに痛そうだったので、彼の抗議にもいくらかの正当性はあったように思うのだが、それは店主によって却下される。

「ここは飯を食うところだ! デュエルならよそでやれ!俺の前でやるなぁ!」
「さ、さっきはデュエルしてても何も言わなかったぞ!」
「あのシラミ野郎を退治してくれるってことでおおめに見たんだよ。だがもうそういうのは品切れなんだ。もうデュエルは見たくねぇ。あとお前も結構うるさかったぞ」
「っ……だ、だったら店の外で」
「どのみち無理だ。デッキが無い」
「えぇー!?」

 ピシャリと音が聞こえて来たように錯覚させるほど、遊黒はそれをピシャリと言った。そう、彼はデッキを持ってない。手持ちのカードがないのだ。遊旗くんは明らかに動揺し、言葉を失っていた。仕方ない、ここはひとつ、ボクがひと肌脱ごうじゃないか。

「はーい、じゃあ提案! ボクとデュエルしようよ!」
「……え?」
「デュエルがしたいんでしょ?だったらボクが相手になろうじゃないか。物足りないかもしれないけど、きっと楽しいよ」

 彼をじっと見つめてみる。すると彼はまず何か言いたそうな顔になって、なにか考えてる顔になって、そして。

「わ、わかった。やろう。金色遊旗だ」
「ボクは聖天斬。よろしく。あ、これ落ちてたんだ。君の手帳。返すよ」
「あ! わー、ありがとうございます!」
「ま、待て待てーい!」
「ん、なんですか店主?」
「だから、わしの前でデュエル」
「マスター」

 コップをカウンターに置き、遊黒が店主に語りかける。

「俺の連れだ。おおめに見てくれないか?」
「……あんたに言われちゃあな。しかし、デュエルか……」

 その目は悲しみを宿していた。きっと過去に何かあったのだ。しかしそれについて追求する意思も暇もなかった。早く早くと急かす目で、ボクたちの方を見つめる子どもたちがいたからだ。やれやれだぜ。今日は他人の期待に応えデーか何かなのかといいたくなるというものだ。しかし、それも悪くない。

「さぁ、パーティータイムと行こうか」
「へ、俺様のビクトリータイムにしてやるぜ!」
「「デュエっ

 しかしその時、爆音が鳴り響いたのである。ドアが蹴り破られる音だ。

「バァァァァッ!!!」

 それは影。デュエルシャドウと言えばお分かりいただけるだろう。それを見るなり、店主が目の色を変える。

「て、てめぇ、あの時の! 許さねぇっ!!」
「ま、待て!」

 遊旗くんの制止むなしく、店主はシャドウに掴み掛かり、そしてあっさり突き飛ばされ、床に頬ずりする格好になる。シャドウはこの非紳士的なコミュニケーション法を良しとしなかったのか、店主に追撃のパンチをし。

「あ、危ない!」

 店主をかばい、遊旗くんが背中でそれを受けた。彼は血を吐き倒れる。

「ぐ……!」
「だ、大丈夫かあんた!」
「こ、こいつはヤバ過ぎる……みんな逃げ……」

 店内は狭く、ひとつしかない入り口の前にはシャドウがいる。小さな子どもが多く、皆が思い思いに叫んでいたので遊旗くんの声も届かない。ボクが駆け寄り傷の状態を確認できた時には、遊旗くんは酷い顔色だった。

「遊旗くん、大丈夫か!?」
「……俺はまた守れない……何も……!」

 体だけじゃない。心も彼を傷つけているようだった。

「ヴァ……ショクジ……ショクジノジカン……ヴァァァァッ!!」

 シャドウは言葉のようなものを発しながら、スゴいスピードで子どもたちに駆け寄る。そしてその口が裂け、長い、長い舌が出てくる。悲鳴が響き渡り、店内はさらに混沌を極める。それはまさに地獄の到来だった。
 ボクは懐を探る。2つのデッキケース、そのうちのひとつに指が触れた時、ボクの肩を制止の意の手が叩く。
 振り返れば、そこには遊黒。

「食事の邪魔をするのは心苦しいが」

 次の瞬間、ホワイトアウト


「……アア?」

 それまでの混乱がまるで悪い夢か何かだったかのような、静かな場所だった。何もない草原。そこにはボク・遊黒くん・遊旗くん・店主・シャドウの5人がいるのみだった。

「な、なんだここは!?」
「どうなってんだ、店の中にいたはずなのに」
「あはは。ま、こういうことって稀によくあるよネ!」
「無いわ!!」

 遊旗くん&店主はごまかされなかった。ボクはアハハ笑いをひとつやった後、遊黒くんを見た。パッと見た感じ普段と変わらないが、あれは完全に怒っていた。彼は感情が昂ると目が赤く変色し、髪形がギザギザに変形するクセがあるのだ。

「闇の扉は開かれた」

 遊黒くんは漆黒のマントをはためかせ、いつの間にか装着していた決闘盤を構える。

「貴様は俺の心の領域を侵した。よってゲームを受けてもらう。闇のゲームだ」

 ヨーイドンの直後みたいな勢いで、大地から石版が発射する。それらはカードとなり、遊黒くんのディスクに装填される。

「貴様は神が産み落とし賜うた命ではない。あるべき姿に還る時が来た」
「……?」
「つまり、悪夢タイムということだ」
「……ヴァアアアッ!!」

 シャドウが嬉しそうに咆哮する。その腕がグニャグニャと変形し、決闘盤となる。デュエルに応じる意思があるということだ。遊黒くんはそれを眺め、笑う。

「はじめに言っておく。俺は貴様を一撃で倒す」
「……ヴァアアアッ!!」

 ん?おお、これでようやく冒頭の場面に追いついたというわけだ。いやはや、思いのほか長くなった。
 では、つつしんで、終遊黒くんのデュエルを楽しむこととしよう。

「デュエル!!」

 闘いの火ぶたが切られる。先攻はシャドウ。

「魔法カード、『強欲で謙虚な壺』」
「あれは、デッキの上3枚から好きなカードを手札に持ってこれるカード。だが発動ターン特殊召喚はできないから、たいしたモンスターは呼べないはず。想像と違って大人しい出だし」
「『王宮のお触れ』ヲ手札二」
「全然大人しくねー!?」

 いきなり強力なカードが来た。遊旗くんが叫ぶのも当然と言えた。あの罠カードは一度発動してしまったら最後、場にある限り他の罠カードの効果を全て無効にし続ける。罠カード主体のデッキならここで花屋に電話してユリの花を予約して来るところだ。つまり死を悟るという意味だが。

「魔法カード、『二重召喚』」
「あれはモンスターの通常召喚を2回できるようにするカード。こ、これは……」
「モンスターヲセット、ソシテリリースシ、『威光魔人』召喚!!」

 黄金の光をまとりし魔人が、シャドウの元へ舞い降りる。

「……終わったんじゃねこれ」

 遊旗くんは絶望の顔になっていた。そしてその反応は妥当性の高いものだった。威光魔人はモンスター効果の発動を全て禁じる。モンスター効果主体のデッキならここで以下略。

「い、いや、だけどあいつの攻撃力は2400。モンスター効果なしでもなんとかなる可能性は……」
「魔法カード、『デーモンの斧』ヲ装備!」

 それは装備したモンスターの攻撃力を1000アップさせるカード。これにより威光魔人の攻撃力は3400となる。

「……ば、バカな……!」
「カードヲセット、ターンエンド」

 シャドウは手札を全て使い切った。よって今伏せられたカードは自然と王宮のお触れということになる。

「……」
「……!」

 遊旗くんの喉が鳴る音が聞こえた。店主も、デュエルのことはあまり詳しくなさそうだが、この状況のマズさは察しているようだ。
 しかし。

「良いターンだった」
「……ウ?」
「次は俺のターンだな」

 当の遊黒は微笑んでいた。今の彼はこれが命がけのデュエルだということもあまり覚えてないのではないかと思う。デュエルをしている時の彼はいつもそうだ。優しく、自らのデッキに手をかけ。

「ドロー!」

 運命の一枚を引く。彼がそのカードを引いてから視認するまで、コンマ数秒だが間があった。その間、何のカードが来るのか胸をドキドキさせてたに違いない。それはおおいに分かるというものだ。あれだけ悲観的だった遊旗くんだって、その目の光は消していない。

「……?」

 シャドウは首をかしげる。理解できないのだろう。ボクの、遊旗くんの、期待のまなざしの意味を。

「来たぞ、お前の悪夢が」

 自らが相対している相手の、無邪気な瞳の輝きを。

「『ナイトメアテーベ』召喚。そして魔法カード、『古のルール』」
「あれは、高レベルの通常モンスターを呼び出すカード!」
「ヴァアッ!」
「来い」

 空から、黒い影が来る。黒い巨体、鋭い四肢。そして何より象徴的なのはその眼。

「『真紅眼の黒竜』っ!!」

 竜が、遊黒くんの元へ舞い降りる。遊旗くんがまた息を呑んだ。忙しいなぁ。

「バカな……レッドアイズドラゴンだと!?」
「知ってるのか遊旗!?」
「あぁ! あれは伝説の超レアカード! なんであいつが!?」

 だがレッドアイズの攻撃力は2400。単体の攻撃ではこの状況は打破できない。ならば。

「レッドアイズとテーベの力を束ねるまでだ」
「……?」
「見るがいい」

 レッドアイズとテーベを魔法罠ゾーンに置き、そこから伸びる進化の道が、雲を貫き、オゾンを超えて。

「レボリューション・ロード!!」

 進化の道を切り開く。その道の先から。

「終わらない未来をここに捧ぐ。幻の夢より生まれし混沌よ、沈んだ大地に降り注げ」

 終わりなき悪夢の体現者が、朝焼けに降り注ぐ雪のように静かに。

「ユニバース召喚」

 この大地に降臨する。

「ハートにズッキュン・ディスティニー!!」

 遊黒くんが歯を剥き出しにしてフガフガ言っていたがそんなことはどうでも良い。重要なのはだ。

「覚醒、『ナイトメア・ブラック・ドラゴン』!!」

 そのドラゴンが素晴らしいシロモノであるということさ。攻撃力は2500。現世と幻想、その狭間から這い出でし黒い龍。

「……ナイトメアブラック。テンシノカード!」
「そう。レガシーを受け継ぎ生まれるユニバースカードだ。会えて嬉しいか?」
「ダガ、攻撃力ハ威光魔人ガ上ダァッ!」
「と、いう夢を見ていたのさ」
「!?」

 威光魔人が優位に立っていた所以、デーモンの斧のカードが、ナイトメアブラックのものになる。遊旗の場で魔法カードが発動していたのだ。

「『移り気な仕立て屋』。このカードは装備カードを別の対象に移し替える」
「ワガカードヲ利用スルトハ……!」
「良い夢は見れたか?残念だが、ここからは悪夢フルコースだ。ナイトメアブラックの攻撃!」
「ダガ、ライフハ残ル!!」
「ここで、レッドアイズの効果発動」
「無駄ダ、威光魔人ニヨリ無効!」
「都合の悪いことばかり起こる。それが悪夢だ」

 龍のアギトにエナジーが集まる。その攻撃力は3500……おっと、これでは描写に齟齬があるというものだね。ナイトメアブラックの攻撃力はさらに上がる。

「ナ、ナゼダ!?」
「レガシーフォースはモンスター効果の発動ではない。よって有効。ナイトメアブラックの攻撃力は2倍となる」

 魔法罠ゾーンのレッドアイズが光を放っている。その光がナイトメアブラックに力を与えているのだ。魔法罠ゾーンにレガシーとして置かれたカードはルール上魔法カードとして扱われる。よってこれはモンスター効果の発動には当たらず、威光魔人の妨害を受けない。つまり。


「コ……コ……攻撃力7000!?」
「夢から醒める時だ」

 偽りの光は世界から去り行き、真実の夜が訪れる。良い子も悪い子も思わず即寝の必殺の一撃。

「悪夢失墜《ナイトメア・フォール》!!」

 世界は、漆黒の夜に落ちた。