焼き肉の熱血遊び日記

漫画アニメ特撮カードゲーム大好きな男の趣味ブログ。

第4話 天新海殺人事件

 アール。それが金色遊旗の復讐の相手の女である。遊旗が彼女に奪われたものは3つ。1つ、切り札のカード。2つ、セキュリティーとしての誇り。3つめは、また後、語るに相応しい時と場があるだろう。
 それは一年前のことだった。シャドウに女性が襲われ、その父親からセキュリティー本部へ通報があった。現場は遊旗がパトロールするエリアだったので当然彼が向かうことになった。セキュリティーは基本的に二人一組で行動するが、遊旗のパートナーは不真面目な男だった。その日もいつも通りサボっていたので、遊旗はひとりで現場に向かった。
 その途中で、美しい女性に出会う。真っ赤なツインテールの、チャイナドレスのような服の女性。その妖艶な雰囲気に、遊旗は思わず息を呑む。歳は遊旗より少し上のように見える。ちなみに遊旗は17である。彼女は遊旗の前に立ちふさがる。

「そなたが金色遊旗か?ほお、これは随分とまぁ」
「……じゃ、邪魔しないでくれ。俺は今急いでて」
「可愛い眼をしている。ふふっ」
「……っ」

 そのまま、デュエルすることになった。遊旗は敗北した。術のようなもので動きを封じられ、切り札のカードも奪われる。抵抗してもアールは離してはくれない。むしろ彼女は抵抗する様子を楽しんでいるようだった。
 いくつもの辱めを受け、遊旗はアールの事しか考えられなくなり、やがて、意識が飛ぶ。
 目が覚めた時には、全てが終わっていた。

「ん、んん……」
「起きたか。ふふ、そなたの寝顔をもう少し見ていたかったが」
「はっ!? お、お前……!?」

 ベッドから飛び起き、遊旗は辺りを見回す。そこは彼の自室だった。来ていた服もパジャマに変わっていた。アールは優雅に椅子にもたれ、遊旗の一挙手一投足を愛おしげに眺めている。遊旗はそれに気づき、気恥ずかしさを感じながらベッドに腰掛ける。

「な、なんなんだよこの状況……」
「妾が説明してやろう」
「わらわ?」
「道端で倒れたそなたを妾が助け、そなたが最も安らげるであろう自室に送り届けた。が、心配だったのでこうして見守ってやっていたというわけだ。さぁ、感謝の言葉などを述べるが良い」
「ふ、ふざけんな! 元はと言えばお前が……あっ!」
「6時間ほど眠っていたか。ふ、シャドウの方はもう手遅れよなぁ」
「……!!」

 絶望する。セキュリティーとしての務めを果たせなかった自分への怒り。このアールという女への憎しみ。

「そなたが倒れた後、セキュリティー数人が現場に駆けつけるが、時既に遅し。影は去り、データの強奪にも成功した。全ては我らの思うがまま」
「クソ、てめぇ許さねぇっ!」

 遊旗は怒りのままデュエルを挑む。だがあっけなく敗れ、また動きを封じられる。アールはデュエルの感想を述べながら、怪しげな薬を取り出し。

「いやはや驚いた。さきほどより強くなっていたように感じたぞ?妾への怒りによって潜在能力を引き出しつつある、か。そなたは面白いな」
「く、ちくしょう……!」
「妾を楽しませた礼だ。褒美をとらす」

 彼女は薬を遊旗に飲ませる。やがて、遊旗の理性が飛び。

「アール……アールっ!」
「……遊旗……あ……ん♡」

 その後どうなったかは、遊旗の記憶からは消えていた。アールは姿を消し、いまだ見つかってはいない。
 遊旗のパートナーは責任を感じセキュリティーを辞めた。不真面目だが正義感はある男だった。
 事件は早急に片付けられた。隠蔽されたと言っていい。遊旗は事件の資料すら入手することができなかった。遊旗は自分の手で被害者を見つけると決めた。
 遊旗は同じ学校に通っていたことを活かし、天新海に接触した。目的は、事件の手がかりとアールを倒すための力を得るためである。

 ある日、新海との密会にて。

「……という喫茶店がある。知っているか?」
「ん?あぁもちろん。一回入ったことあるし、パトロールの範囲内だからな」
「張ってみろ。そのうちここで面白いことが起こる」
「お前が面白いっていうと、ろくなことじゃねぇんだろうな……」
「ははははは! よく分かってきたじゃないか」

 新海は口を大きく開けてバカみたいに笑っていた。しかしすぐに冷徹っぽい顔になる。遊旗はこの表情が急に変わるのが慣れなくて嫌だった。

「特にそこの店主に近づくヤツはチェックしておけ。特にうちの社員が来たら要チェックだ」
「なぜ?」
「その時が来れば教えよう。だがせっかくだ、ヒントをやろう。その店主、父親だ」
「?」
「娘は行方不明。一年前に姿をくらましたっきり」
「まさか……!」
「くくっ。健闘を祈るよ、おまわりさん」

──そして今──


 はははヤッホー! みんな大好き、聖天斬、参上っ! う〜ん、良い天気だなぁ。
 さて、遊黒くんと遊旗くんのデュエルが終わったわけだが。新海くんがかっこつけて去り、シルバーちゃんがそれをふらつきながら追っかけていく。その様を見ながらボクは笑顔になった、と思う。ボクは他人の幸せが好きだ。そりゃ嫉妬もするし殴りたくなったりもするが、最終的にはハッピーがそれをオーバーする。幸せはトゥゲザーするものだからね。

「お、おい斬、その手に持ってる爆弾は何だ!?」
「うん?ははは、そんなにビビるなよ。おもちゃに決まってるじゃないか」
「そ、そうか。じゃあ行くぞ斬。こんなところに長居は無用、オムライスのおかわりが俺たちを待っている」
「おかわり?んー、あんなことがあったんだし、今日は店ジエンドなのでは?」
「あのマスターがそんなタマかよ。よし食うぞー! いえぇぇいっ!!」

 そんなものだろうか。でも遊黒くんが断言するんだからたぶんそうなのだろう。
 ボクは遊黒くんを追う前に、遊旗くんも誘ってみることにした。

「ボクらは今からさっきの喫茶店に行くけど、君もよかったらどうかな?」
「折角だけど。そろそろ戻らないとヤバそうだ」
「そうか。じゃ、遊黒くんの行きつけを教えておくよ。これがあればこれからも簡単に会えるはずさ。書いておいたから、ほら」
「おぉ、気が利くな。ありがとう斬。これでいつでもあの野郎とデュエルできる!」
「どういたしまし、えっ!?」

 ボクは突然手を握られたことで驚いた。そりゃもうビビった。なんたって目の前の少年はすごい美少年。言動はバカっぽいけど身体は良い感じに鍛えられてるし、総合的に見ればかなりの上物だ。そんな上物にハンドキャッチされるのは本能的に来るものがあった。そして何より、ん、少し遠くから女の子が走ってくるなぁ。黒髪が肩にかかるくらいの、かなり可愛い子だ。ん、誰かに似ているような。

「ちょ、ちょっとお兄!!」
「ん?おー鎖月か」
「おー鎖月かじゃない! その人なんなの手なんか握って!?」
「あー?この人はさっき知り合ったんだ。すげー気が利く良い人なんだぜ! 斬っていうんだ!」
「今日遊旗くんと知り合った斬というものでござる。怪しくないでござる。ニンニン!」
「どうも、遊旗の妹の鎖月です。兄がお世話になってます」

 遊旗くんの回答が彼女にとって満足いくものでないことは分かったので補足してやると、シンプルかつ簡潔な挨拶が返ってきた。兄がアホっぽいから心配していたが、なかなかしっかりしていそうな子じゃないですかー。
 ボクがホクホクしていたら、なんか遊旗くんが彼女の頭を優しく撫でていた。

「今日も可愛いな。鎖月」
「ば、ばか、恥ずかしい……」
「あ、そうだ、今夜一緒に風呂入るか?」
「ブッヘー!!」

 思わずむせてしまった。どういう脈絡やねん。やがて、鎖月と呼ばれた少女が恥ずかしげに頬を染め。

「……うん」

 妹は妹でネジが外れているようだった。兄妹でこの距離感とは、ちょっとボクにはキツい物件だなぁ。なんて思ってたら鎖月ちゃんと目が合う。そこにはまだかすかに敵意が残っていたわけで、とどのつまり嫉妬している女の眼であった。ボクは愛想笑いをやりながら、ちょっと困る。

「ねぇお兄。この人とはほんとに何にもないの?」
「あん?どういう意味?」
「だ、だからその、なんていうか、い、いや、別になんでもない」
「?」
「話はまとまったようだね。ならボクはそろそろ、いや、ちょっと待っただ」

 去る前に、大事なことを伝え忘れていた。鎖月ちゃんの登場であまり詳細には喋れなくなったが、まぁそれは問題ない。ボクは遊旗くんへ告げる。

「今ごろ遊黒くんは店主と話をしているだろう。デートの相談だ」
「デート?」
「予定通りならそれは明日の9時。あの二人、見張っておいた方が良いかもね」
「なにを言っている?」
「アールさんの足取りも掴めるかもしれないし」
「……なに?」

 遊旗くんの顔色がサッと変わる。もう少し教えてあげたいが、今の彼に詳しい説明をすることはできない。なぜなら、彼は今の段階では部外者だから。これから始まる闘いのね。

「今はまだ私が話すべき時ではない。今日はこれで失礼する。なに、きっとまた会うさ」
「ま、待て!」
「6次元の運命をかけた闘い。それに、君が乗り込んでくる勇気があるのならね」

 遊旗だけに! 遊旗だけに!! そう心の中で叫びながら、ボクはクールに去ったのであった。

 


「やぁマスター。やってるな。早速注文したいんだが、いいかな?」
「あ、あぁ」

 喫茶店にて。終遊黒は店主の目の前のカウンターに座りながらメニューをパラパラとやりだす。彼は子どものような笑顔だった。
 店主は遊黒にどうしても聞きたくなった。

「あんた、そんなに俺の料理が好きか?」
「もちろん。美味しいし、それに……」
「それに?」
「上手くは言えないけど、こう、帰って来たー!って感じがする。こういう感覚はあなたの料理を食べてる時だけだ」
「……そうか」
「よし、今度はこの地獄チャーハンってやつにしてみるか!」

 遊黒はウキウキだった。先ほどまでの超人的な雰囲気は微塵もない。少しの間があいた後。

「客、他にも少しいるな。あんなことがあった後だというのに。ふ、この店の人気には舌を巻く」
「あ、あぁ。本当にありがたいよ」
「けど、入り口は見栄えが悪い。壊されてしまったからしょうがないが。よし、少し待って」

 遊黒は悪戯な笑みを浮かべ、唇に指を当ててシーをひとつやった後、シャドウに破壊された扉へと手をかざす。その扉はボコボコになり、現在は『修理中』の紙が貼られていた。しかし次の瞬間、扉は破壊される前の状態に早変わり。店主は息をのむ。

「こ、こりゃ驚いた!」
「はは、あまり大声を出さないで。本当はおおっぴらにやるのはマズいんだ。ま、特別サービスというやつかな」
「あ、あんたは一体?」
「天から舞い降りた天使」
「は?」
「ふふ、冗談です」

 遊黒は微笑み、穏やかに話し出す。

「さっき言ってたな。『てめぇ、あの時の!』って。どういう意味です?」
「……なんとなく分かってるんじゃねぇのか?」
「まぁ、なんとなくなら。でもそこまでだ」
「そうか」

 店主は遊黒に全て話してみることにした。なぜそんな気になったのかは分からない。なんとなく、誰かに話したくなったのだ。
 一年前、娘がシャドウに襲われ、それから消息不明になったこと。リバースコーポレーションの副社長から、復讐の機会を与えられたこと。それが明日であること。
 遊黒はチャーハンをガツガツやり終えたあと。

「そうか。で、あなたはどうする?」
「どうする、か」
「あぁ。ま、その副社長ってやつはめちゃくちゃ怪しいし、なんらかの危険は伴うと思うけど」
「危険か」

 店主はボンヤリと呟く。

「副社長に話を持ちかけられた時、頭が怒りでいっぱいになった。娘のために何かできるなら俺はどうなってもいい、必ず復讐するんだって、そう思った」
「……」
「でも、ここでメシ作りながら考えた。天新海の野郎は許せない。でも復讐しても娘は帰ってこない。それに、俺にはこの店がある」
「そうだな。あなたに何かあったら困る。俺も斬も遊旗も、みんな」
「だけど、こみ上げてくる怒りもある」
「そうか」

 遊黒は微笑み。

「俺は復讐もアリだと思う。前に進むための手段としてならね。でもできることなら、今あるものの大切さを分かった上で行動して欲しい。あなたはそれを分かってる。今のあなたが決めたことなら、俺は何も言わない」
「……まだ分からないんだ。どうすればいいのか」
「時間はたっぷりある。相談にのるよ。うまいコーヒーを淹れてくれるならね」
「ふっ。まいど」

 その後、斬が来店する。その時、店主と遊黒は談笑していた。とっておきのイタズラを思いついた、少年同士みたいに。

 

──翌日、朝9時!!──


「本日はようこそおいでくださいました」

 副社長は来訪者に背を向けたまま、淡々と挨拶の言葉を述べる。
 ここはリバースコーポレーションと隣接している工場の中の実験室だ。それなりに広いが無機質で、ふん、客を迎える場所としては不自然この上ない。

「場所をここに指定したのは、ここが私のホームだからです。あぁ、自宅という意味ではありませんよ。ここが私の主な仕事場なのです」
「……」
「さて、早速本題に入りましょう。天新海に会いたいんでしたね。ほら、ここにいますよ」

 副社長が足下の肉を蹴る。それは人間の亡骸のように見えたが、さて。副社長は邪悪な笑みを浮かべていた。

「愚かな男だ。私を軽く扱うからこうなる。先代の頃からね、私は信用されてないんだ。裏切れるだけの力も与えられてない。だが天新海は死んだ! これで私が社長……この世界の頂点に立つことができる! 私こそが、新世界の王となるのだぁー!!」
「……」
「おっと失敬。ま、とりあえず私は暴力にうったえるしかなかったわけですよ。蹴りたければあなたもどうぞ」

 俺が無言なのを見てか、副社長はスイッチでが出入り口を閉じる。俺たちは密室で二人きりになったわけだ。やつは決闘盤を装着し、ニヤリと笑う。底意地の悪い笑顔だった。できれば二度と見たくないと思うほどにな。

「もちろん、暴力にはリスクもある。別の犯人を用意しなければいけませんからね。そしてあなたは私の身代わりに都合が良かった。動機もあるし家族もいない。そして何より頭が悪い。ここに来たのがその証拠」
「……」
「怖くて声も出ませんか。ではさらにひとつ、良いことを教えてあげましょうね。一年前のあなたの娘の事件、あれは私の仕業です。シャドウが人間を襲うことの意味、その結果何が起こるのか。そのデータさえあれば社内で認められると、当時の私は無邪気にも信じていたのでね」

 やつは饒舌だった。自分の世界に浸っているような、一方的な語りぐさだ。俺はやつが嫌いになった。

「悔しいでしょうね。あなたの娘の犠牲には何の意味もなく、あなた自身も私の身代わりになる。これからあなたの脳をいじり偽りの記憶を刻みます。自分が天新海をはずみで殺してしまった、という罪の記憶をね。そして自首する。ま、ひとり殺したくらいなら数十年で出れるし、余裕でしょ。どーせガキももういねーんだからさぁ!」
「……」
「世界は無情! 弱者は強者のエジキになるより他にない! ククク、ハハハハハ!!」
「こんなやつが副社長とは、新海も苦労しただろうな。ふ、まさかやつに同情する日が来るとは」
「ハハハハ……ハ?」
「あんたに品が無いって話だよ。オッサン」

 俺の様子にやっと疑問を抱いた副社長は振り返る。そこにいたのは!
──ババーン!!──
 終遊黒その人だった、というわけだ。

「な、なんだ貴様!? やつはどうした!?」
「終遊黒。代理の者だ。マスターは今ごろ、料理の準備でもしてるんじゃない?」
「ふ、ビビって逃げ出したか。自分の娘の仇が討てるチャンスだというのに。はは、臆病者はこれだから困る」
「それは違うな。人はそれぞれに相応しい闘いの場がある。喫茶店で料理を作ること、それが彼の闘いだ。お前に邪魔する資格はない」
「あん?」
「つまり、お前の相手は俺で十分だということだ」

 俺は決闘盤を装着し、床に指先をあてる。すると床からカードが手品で出てくる旗みたいな感じでスルスル出てきて、これでデッキが手元にアライブというわけだ。やつはそれを見て一瞬目を見開くが、すぐに通常営業に戻した。

「なるほど、貴様が例の化け物か。未知のカードを持っているという」
「俺を知っているか。なら話は早い。お前にはゲームを受けてもらう。闇のゲームだ」
「ほー。それは面白そうだ。だがその前に、そこの君、出てきたらどうかね?」

 気づいていたか。さっきから、俺の後ろの物陰にひとり隠れている。俺が入るのと同じタイミングで侵入したのだろう。そのまま出るタイミングを失ったか、副社長と闘うつもりで残ったか。面構えを見たところ後者のようだが。
 副社長の声を受けて、その男、金色遊旗が俺たちの前に歩み出る。やつは副社長を見つめ。

「……さっきの話は本当ですか?あなたが店主の娘さんを……」
「本当だとも。データが必要だったのでね」
「なぜ彼女を?恨みでもあったのか?」

 人は怒りがある一線を超えると逆に静かになる。今の遊旗がそれだ。やつの震える拳が、激しい怒りを訴える。
 そんな遊旗を嘲笑うように。

「バーカーかー君はぁ!?恨みなどあるわけがない。私と接点がある人間にしたら怪しまれる、だからランダムで選んだのだ。そうでなければあの女とガキにしたものを。あぁ、女とガキというのは別れた妻と息子のことだ。別れた後もカネカネカネと、私にたかってくるんだよ。昔少し殴ったくらいで人をネチネチと。恐ろしいやつらだ」
「恐ろしいのはあんただ。人を傷つけておきながら罪悪感のカケラも無い。続きは署で聞かせてもらう」
「そうするには私を倒すしかない。だがその場合、君にも相応のものを賭けてもらわねばなぁ。そうだ、頭をいじって一生私のしもべというのはどうだ?」
「……俺をどうしようが、セキュリティーの手からは逃れられない。無駄な抵抗だ。すぐに自首しろ」

 遊旗はセキュリティーとして真摯だった。やつは副社長をぶん殴りたかったかもしれない。だが個人的な怒り憎しみを抑え、自首を促す。俺はその姿をみて遊旗が少し好きになった。だが副社長はそうではなかったらしい。

「クク、本気で言ってるとしたら救いようのないバカだな。私はリバースコーポレーションの副社長だぞ。身代わりの犯人さえ用意できればどうにでもなる。むしろお前の上司たちが庇ってくれるさ」
「……!」
「良い顔だぁ。クククっ! しょせんお前らは権力には逆らえねーんだよぉ!! アヒャヒャヒャヒャー!!」

 これほどまで、怒りに燃えた顔というのは見たことがない。だが副社長が言っていることもひとつの真実だ。権力には人を屈服させる力がある。だから人はそれを求め、だから争いは絶えず繰り返される。
 だがそのループから抜け出す術もある。権力を超えて信ずるべきものを見つければいい。だが老齢の者であっても見つけられない者には見つけられないのだ。さぁ、遊旗はどちら側の人間か。
 やがて、やつは静かに。

「俺は貴様を倒す。そして罪を償わせる。力づくでもな」
「生意気いうなよ。小僧ぉ!」
「たしかに俺は小僧だが、死ぬより辛いことはいくつも知っている。それら全て、貴様の体で試してやるぜ」
「仮に私を倒したとしても、お前にそんなことはできん! セキュリティーにそんな権限はない!」
「セキュリティーじゃない、俺がするんだ。ありがたいことにここは人気もないし、遊黒も見逃してくれそうだ」

 遊旗は妖しく微笑む。副社長はビビっていた。ただの脅しじゃない、こいつならやりかねない。そう思わせるだけの説得力が、今の遊旗にはあった。もっとも、ほんとうにやるかどうかは俺には判断がつかないが。ま、いずれにしても。

「面白くなってきたな。だが遊旗、やつとデュエルするのは俺だぞ」
「あん?空気読めよ、完全に俺がやる流れだろ今」
「普段なら譲ってるところだが、今はマスターの代理で来てるからな。俺には闘う義務がある」
「それは分かるけど、俺にもセキュリティーとしての責務がある」
「ふふ、私の取り合いか。学園のマドンナ的な気分だよ。ではここでひとつ提案する。2対1のバトルロイヤルはいかがか?」

 俺と遊旗は顔を見合わせる。なるほど、たしかにこの人数でこの会話の流れとなれば、バトルロイヤルというのは一見自然に見える。しかも2対1でやれるならこちらが有利……のように見えるが、怪しいものだ。もっとも遊旗の答えはすでに決まっているようだが。そして、なんと俺の答えも同じだ。

「やってやるぜ、バトルロイヤル! サポート頼んだぜ、遊黒!」
「ふん。精々足は引っ張るなよ」
「決まったようだね。クク、仲が良さそうで何より。では、知っているとは思うが念のためルールを説明しよう」

 バトルロイヤルルールの説明を受ける。内容を要約するとこうだ。
 ターンの順番は、遊旗→副社長→遊黒→副社長→遊旗。全プレイヤーの最初のターンが終わるまで、バトルフェイズを行うことはできない。
 ゲーム開始時、副社長には10枚の手札と8000のライフが与えられる。俺と遊旗は通常通り手札5枚、ライフ4000でスタート。
 俺と遊旗の手札フィールド墓地は共有されない。仮に俺が「自分の墓地のカード」や「自分の場のカード」を対象とするカードを使う場合、遊旗のカードを対象にすることはできない。ただし俺の場にモンスターが無い状態で副社長からの直接攻撃を受ける場合、遊旗の場にモンスターがいれば、遊旗は自分のモンスターを俺の盾にすることが可能である。
 副社長のライフが0になれば、俺と遊旗の勝利が決まる。俺か遊旗のどちらかのライフが0になった場合はそのプレイヤーがゲームから外れ、それ以降は残ったプレイヤーと副社長が普通に1対1で闘うことになる。
 ルールの要点はこんなところかな。遊旗も決闘盤を付け、準備完了のようだ。最後に、俺も副社長に最後の説明をしてやることにした。

「言い忘れたが、闇のゲームでは敗者およびルールを破ったものには運命の罰ゲームが待っている。ご期待いただこう」
「ほーう。それは楽しみだが、結果は既に見えている。遊旗は一生私のしもべ、君は天新海殺人事件の犯人として逮捕! ククク、ハハハハハ!!」
「……夜が来る。お前に」
「俺と遊黒は負けねぇ! お前をぶっ潰す!!」
「ガキどもが。大人の怖さを教えてやる!」
「さぁ、闇のゲームの始まりだ」

 実験室に絶叫が響き渡る。絶叫という表現で正しければだが。それは開戦の合図。

「デュエル!!!」

 容赦なき血肉貪る闘争が始まった。まずは遊旗のターン。

「俺は『サイレント・ソードマンLV3』を召喚! さらにカードを1枚伏せ、魔法カード『タイムカプセル』を使う。これでターンエンド!」

 タイムカプセルはデッキ内から好きなカード1枚を除外し、発動後2回目の自分のスタンバイフェイズ、そのカードを手札に加える。このバトルロイヤルにおいて2回目の自分のスタンバイフェイズは普段よりも遠い。そのためか、副社長の警戒の色はうすい。

「攻撃力1000のザコモンスターか。クク、早くも私の勝ちは決まったようだ」
「こいつはザコなんかじゃない」
「ザコだろ。仕方がない、では本当の強さというものを教えてやろう。 まずは魔法カード『融合』ぉ!!」

 いきなり来たか。融合召喚はターンを費やさずに上級モンスターを呼べるからな。やつの手札のロード・オブ・ドラゴンと神竜ラグナロクが融合し、黄金のモンスターが出現する。

「出でよ『竜魔人 キングドラグーン』!!」
「だ、だがまだ攻撃はできない!」
「構わないさ。私の狙いはこいつの特殊能力にあるのだからな。見るがいい、竜の王たるキングドラグーンの力! 効果発動! ターンに1度、手札からドラゴンを1体特殊召喚できる。レベルに関係なくなぁ!」
「ということは……!」
「さらに上級モンスターが増える! 来い『マテリアルドラゴン』!」

 キングドラグーン、マテリアルドラゴン、共に攻撃力は2400。俺のレッドアイズと同等の攻撃力を誇るモンスターがいきなり2体だ。加えてこの2体には厄介な効果がある。副社長はそれを自慢げに述べる。

キングドラグーンがいる限り、相手はドラゴンを効果の対象にすることはできない! そしてマテリアルドラゴンがいれば、モンスター破壊効果は手札1枚をコストにすれば無効にできる。つまり今、ドラゴンを守る絶対防御の布陣が完成したのだぁ!!」
「な、なんてやつだ……!」
「さらに『アレキサンドライドラゴン』を召喚。カードを1枚伏せターン終了。さぁ終遊黒、お前のターンだ。最後のなぁ!」
「俺のターン」
「ククク、早くキングドラグーンを倒さないと、ドラゴンが際限なく増え続けるぞぉ?」
「カードを3枚伏せ、『カードカー・D』を召喚。その効果で自身をリリースして2枚ドロー、ターンエンド」
「……プッ」

 せきをきったような爆笑が響く。無論、副社長のものだ。やつは勝ち誇ったようにカードを引く。

「ハハハハハ! まさか壁モンスターすら出さないとは。がっかりだよ。実にがっかりだ。人生最後のデュエルになるかもしれないというのに。では幕引きといこうか。キングドラグーンの効果で『ラビードラゴン』を特殊召喚!」
「こ、攻撃力2950!?」
「ちっ」

 アレキサンドライドラゴンの攻撃力は2000。ラビードラゴンは2950。これでやつのモンスターの攻撃力合計が俺たちのライフを上回ったが。

「攻撃の前にこの魔法カードを使っておく、『ナイト・ショット』! 遊旗、お前の伏せカードを破壊!」
「なに!?」

 破壊されたのは『神風のバリア ─エア・フォース─』。相手の攻撃時に発動でき、相手の場の攻撃表示モンスター全てを手札に戻すという効果を持つ。対象をとらない上に破壊でもないので、発動に成功していれば副社長のモンスターたちを全て除去できたはずだ。だが、見破られた。

「ふん、ザコをわざわざ攻撃表示で出してきた時点でお前の狙いはお見通しだった。そんな見え透いた手に、この副社長がひっかかると思うかぁ!」
「……くっ!」
「終わりだ。キングドラグーンの攻撃!」

 ドラゴンたちの叫びが響き、閻魔様の到来を告げるみたいな突進が迫り来る。もはや勝負あったかのように見える。
 だが。

「……ふっ」
「遊黒……笑った?」
「ククク。やせ我慢かぁ!?」
「まさか。デュエルが思いのままに進んでいく、決闘者にとってこれほどの喜びはない」
「貴様、まさか!?」
「そのまさかだ。トラップ発動、『神風のバリア ─エア・フォース─』!」

 奇遇にも俺と遊旗の切り札は同じだったようだ。風が渦巻き、ドラゴンたちへ向かっていく。先述の通り、これが決まれば副社長のモンスターは全て消える。
 しかし。

「ククク。まさか同じ罠を伏せていたとは。意外とお似合いのパートナーかもねぇ。一緒に人生の終わりを迎えるんだ、それがせめてもの救いだ」
「わけわかんねぇこと言うな! これでお前の場はがら空きになるぜ!」
「うるせぇ! この程度の罠、私が読み切れないと思ったかぁ! カウンタートラップ『ギャクタン』っ!!」
「な、なに!?」

 ギャクタンはトラップを無効化する。つまり。

「これでエアフォースは無効となる。つまり私の勝ちだぁっ!!」
「それはどうかな?」
「あ〜ん?」
「ふふ、俺が伏せてるカードも……」
「ま、まさか!?」
「そのとーり。『ギャクタン』!!」

 俺のギャクタンがやつのギャクタンを無効化。結果、残るのはエアフォースの効果のみ。とどのつまり。

「……ヒッ!」
「ご自慢のドラゴン軍団、あいにくだが全員ご退場願おう。消え去れ!」
「うわぁぁぁっ!!」

 大いなる風の渦に呑まれ、ドラゴンたちは消え去る。キングドラグーンは融合モンスターなので手札ではなく融合デッキに戻る。他のドラゴンたちは手札に戻った。とはいえやつはまだこのターン召喚権を使っていなかったので、アレキサンドライドラゴンを改めて召喚し、そのままターンを終えることになった。
 副社長はこちらを忌々しげに睨みつける。さっきまでの上機嫌さが嘘のような悔し顔だ。

「ぜ、全滅〜!! 貴様、貴様ぁ!!」
「バトルロイヤルを吹っかけてきた時点でお前の狙いは明白だった。初期手札が多いことを活かして特殊召喚主体の戦法をとり、俺たちの連携が完成するより早く決着をつける。だろう?」
「わ、私の戦術を読んでいた……!?」
「ふっ」

 俺のスマイルが相当しゃくに障ったのだろう。その顔は紅潮していた。

「ゆ、許さん、許さんぞ終遊黒! 貴様は真っ先に葬って」
「おい、俺のことを忘れてもらっちゃ困るぜ」
「はっ!」

 遊旗のターン。ここでサイレントソードマンはレベルアップする。現れるのは、攻撃力2300を誇る、静かに佇む騎士モンスター。

「『サイレント・ソードマンLV5』!そしてさらに魔法カード『ダブルアタック』! 手札を墓地に送り、ソードマンの連続攻撃を可能にする! 行くぜ!!」
「や、やめろぉ!」
「沈黙の剣LV5、連続斬りっ!!」

 高速の斬撃。アレキサンドライドラゴンを切り裂き、そして、副社長へのダイレクトアタック。

「ぐわぁぁぁっ!!」
「どうだ! これが俺たちの結束の力だ!」
「……く、ククク……!」

 やつのデッキに眠る1枚のカードが怪しく輝く。そこには凄まじいエナジーが秘められている。そう、俺の手札に眠るナイトメアブラックが告げていた。

「調子に乗るなよぉぉ! 新世界の王たるこの副社長の恐ろしさ、とくと味わうがいい!!」
「……近づいているな……お前の悪夢が……!」

 どうやら、ナイトメアブラック真の姿を見せる時は近い。

──その頃!──

「シルバーちゃん! この問題の答え教えて!」
「ダメです」

 聖天斬とシルバーは入社試験の真っ最中。和やかな空模様を眺めながら、聖天斬は自身の不採用を察するのであった。ちゃんちゃん。
 

 

<次回はこちらから!>

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