焼き肉の熱血遊び日記

漫画アニメ特撮カードゲーム大好きな男の趣味ブログ。

第5話 NEO UNIVERSE

「聖天斬くんへ。君がここに来るであろうことは分かっていたよ。なぜなら俺は社長だから。本来なら直接対面といきたかったのだが、少し緊急の用が入ってしまってね。手紙で失礼するよ。詫びといってはなんだが、君が欲しがってるであろう資料は全て机の上に置いておいた。こちらの都合で申し訳ないがコピー等は取れないので、読んだ後は元に戻しておいてくれたまえ。末筆ながら、君の健康と活躍を祈ります。天新海より」

 今読み上げたのが、天新海の机の上に乗っかっていた手紙である。ボクは、つまり聖天斬は、試験を抜け出して天新海の部屋にいた。
 ボクが採用試験を受けたのは見ての通り、この会社に侵入するためだ。新海くんの目的を探るため、そして他の世界の情報を得るために。情報力に関してはリバースコーポレーションはそりゃもうスゴいからね。
 ボクの計画が見破られてたのは少し面白くないが、ここはご好意に甘えることとしよう。資料は5つの束に別れていた。世界ごとに別れているのだろう。

「さて、GX世界は、お、あったあった」

 GX世界、5D's世界、ゼアル世界、アークファイブ世界、ヴレインズ世界。これらの世界が、ボクらが今いるこのオリジン世界からアクセスできる世界だ。ま、行ける世界がこれから増えてく可能性はもちろんあるけどね。世界の名称は天臨海という男がつけた。ろくでもないカス野郎だけどネーミングセンスは良い。

「……超融合神」

 思わず、口からその名が漏れる。これは良い子は真似しちゃいけない行為だ。どんな穏やか縁側にいたとしても断じてダメなアクションである。知識に勝る武器は無い。だがこの世には決して触れてはならない、知らない方がハッピーな存在というのはある。
 ま、今はちょっと興奮してしまっただけさ。ボクの知る限り最大の存在の資料を目の当たりにしてね。でも今のボクの鼓動はナット地震時の大地のように揺るがない。鋼鉄のハートで紙をパラパラやる。

「忍法、速読みの術! うぉー、はかどる、実にはかどるぞー」
「なにやってんですか斬さん」
「あ、シルバーちゃん。ちょっと待つでござるね」

 麗しのシルバーちゃんのジト目が突き刺さる中、資料を読み終え、トントンとやってから元に戻す。これぞ忍法、立つ鳥後を濁さず……っ!

「なんでドヤ顔なんですか。ほら戻りますよ。試験の続きです」
「え?まだ試験するの?」
「はい。あなたの目的がなんにせよ、一度始めた試験は最後まで、です」
「ほげー」

 ボクはモニターをオフにし立ち上がる。モニターには今行われている、遊黒、遊旗、副社長のデュエルの様子が映し出されていた。音が出ないから会話の内容は分からないが、状況は大体分かる。副社長の足下にある亡骸は、新海くんの特徴とかなり合致していた。

「あ、ところで斬さん、新海くん見ませんでした?新海くんがいないと次の試験始められなくって」
「知らないけど、新海くんって呼んでるの?」
「あ」

 シルバーちゃんはしまった顔をしていた。あ、思わず出てしまった系のやつだったか。彼女は頬をうっすら染めながら。

「あ、あの、これは他言無用で! 特に新海くんには! お願いします!」
「オッケー。じゃあ行こうか」

 不自然な必死さだった。そもそもなぜ新海くんに隠す必要がある。答えはただひとつ。彼女は誰にも言えない秘密があり、それは特に新海くんにはバレてはいけない秘密ってことだ。
 ボクが話をさっさと切り上げたのが意外だったのか、シルバーちゃんは少し困惑していた。

「どうかした?」
「い、いえ。ただ、秘密を守ることの見返りを求められると思ってたので」
「ボクはそんなに細かくないよ。ま、あとで何か返してくれるなら嬉しいけどね」

 こちらの目的に関係あるか分からない秘密だ。そんなものを探るために他人の心を踏み荒らす趣味は無い。
 趣味はないけれど、でも、うん、おせっかいを少しだけ。

「王者というのは、大体2種類に別れる」
「?」
「周りの人間と共に歩む者と、ひとりで勝手に歩いてゆく者。彼はきっと前者だ。秘密なんて荷物は、最後は彼の背に重くのしかかる。捨てるなら早い方が良い」
「彼に秘密を明かすことはありません。それに新海く、彼は後者です。ひとりで大きな未来に歩ける人です。私の秘密なんて大きな問題じゃありません」
「なら良いけど。人と一緒に歩いて行くというのは大変なことだ。小さな歩幅のズレが大きな不和となり、やがて道は別れる」
「……」
「私の人生はそういった別れの繰り返しだった。ははははは。ま、相談があったらいつでも言うでござる」

 説教臭くなってしまった。慣れない話をするものじゃあないね。案の定シルバーちゃんに突っ込まれる。

「……なんか、感じ違いますね。それに、私?」
「おっと。そうそう、ボク実は自分のこと私って言う派なんだよね。でもこれは誰にも言っちゃダメだよ。ふたりだけの、ヒ・ミ・ツ」
「な、なんかエッチですね!」
「うん! これで互いに秘密ひとつずつ。貸し借り無しってわけだ。スッキリしたね」

 トテトテとついてくるシルバーちゃんにウインクし、ボクは足を速める。

「斬さん、試験会場と方向違いますよ?」
「どーせ新海くんがいなきゃ試験できないんだ。一緒に探そうよ」
「それもそうですね。よし、新海様ーっ! どーこでーすかぁー!!」
「どこにいるんだホー!」

 遊黒くんたちのデュエル、おそらくあれがトリガー。そこから始まるだろう。全ての次元の、運命をかけた闘いが。
 

 


「私は新世界の王だ! そして、私は神だぁっ!!」
「うるせぇ!」
「王と神どっちかにしろ!」
「ヒヒヒ、そんなことを言っていいのかぁ!? このカードが、目に入らぬかぁぁ!!」
「あ、あれは!?」

 絶叫する副社長、それを見ている遊旗と俺。この3人のデュエルは続いていた。遊旗はともかく、副社長のやつとご一緒するのは悪夢そのものだった。そんな悪夢に拍車をかけるように、副社長のやつはエクストラデッキからカードを1枚取り出す。

「あ、あれは!?」
「知っているのか遊旗?そしてなぜ2回言った?」
「リバースコーポレーションの深淵、前人未到の領域に、デュエルモンスターズ史上最強のモンスターが埋められているという言い伝えがあるが、まさか!?」
「そのまさかさ。もっとも、君たち相手なら使うまでもないがね。これを見せたのは実力差を示すため。大人しくサレンダーすれば、命だけは助けてやるぞ」

 俺と遊旗は目を合わせる。どうやらやつの答えも同じようだ。当然だがな。ふたり揃って啖呵をきる。

「は、それはこっちの台詞だぜ。てめぇの醜い脂肪がぶっ飛ぶほどのデュエルを見せてやる!」
「俺は貴様に与える罰ゲームを考えている。そしてその時は近い。楽しみにしてな」
「ガキどもぉぉ。私の覇道の礎となれぇっ!!」

 ここでデュエルの状況を確認しておこう。対戦形式はバトルロイヤル。遊黒&遊旗ペアvs副社長という形だ。
 今は遊旗のバトルフェイズ。遊旗はライフ4000。手札は1枚。場にはサイレント・ソードマンLV5と魔法カード『タイムカプセル』。次の遊旗のターンのスタンバイズ、タイムカプセルは破壊され、その効果によって除外されたカードが遊旗の手札に加わる。
 遊黒、つまり俺はライフ4000。手札は4枚。場には伏せカード1枚のみ。
 副社長は手札6枚。場にカードは無し。ライフは5400。
 と、こんなところかな。もっとも、これからまた変化があるようだが。遊旗のサイレント・ソードマンが光を放つ。

「行くぜ、サイレント・ソードマンLV5の効果発動! 直接攻撃に成功したターンの終わりにレベルアップする!」
「ほーう」
「LV5をリリース! 現れろ、『サイレント・ソードマンLV7』!!」

 現れる、攻撃力2800の騎士。沈黙に佇むその姿。研磨された力を感じさせる。強力なモンスターであることは誰の目にも明白。
 しかし副社長は笑っていた。

「カードを1枚伏せて、ターンエンド! へへ、これで俺たちが圧倒的優位に立った!」
「えぇ、本当ですかぁ!?」
「あぁ。LV7になったサイレントはあらゆる魔法を無効化する。手出しはできないぜ!」
「そうですかぁ。では私のターン、『ボマー・ドラゴン』を召喚」

 副社長の場に、攻撃力1000の、その名の通り爆弾を持った竜が現れる。攻撃力は低いが、何やら不穏な気配を感じる。遊旗はそれをまだ感じてないのか、余裕の様子だった。

「へ、その程度の攻撃力じゃサイレントには勝て」
「ふふ、ボマー・ドラゴンで攻撃」
「なに?」

 圧倒的な攻撃力の差があるにも関わらずの攻撃。当然、騎士の剣が竜を切り裂き粉砕する。

「バカが! 敵じゃねーぜ!」
「バカはお前だよ。ボマー・ドラゴン効果発動!」

 しかし、竜が持っていた爆弾は処理しきれなかったようだ。竜は騎士にしがみつき、やがて。

「ボマーアベンジ!!」

 爆散。騎士は砕け散り消えた。

「な、何が起こった!?」
「バマー・ドラゴンは自分を倒したモンスターを道連れに破壊する。クク、ザコにはザコの使い道があるということだよ」
「だ、だが、戦闘ダメージは受けてもらうぜ!」
「遠慮するよ。ボマー・ドラゴンの戦闘で発生するダメージは0になるのでね」
「くっ!」

 結果、副社長は労せずサイレントの除去に成功した。攻撃力で勝てず魔法が使えない、そんな状況でも抜け道はある。見事と言っておくか。

「邪魔者が消えたので魔法カードを使うとしよう。『トレード・イン』で手札の『ラビードラゴン』を墓地に送り2枚ドロー。さらに『愚かな埋葬』だ。山札から『アークブレイブドラゴン』を墓地へ送る。カードを1枚伏せてターンエンド。さぁ遊黒、君のターンだ」
「くっそ〜、俺のサイレントがあんな簡単にやられるとは」
「でも無駄じゃないさ。結果として今、やつに壁モンスターはいない」
「あぁ。頼んだぜ遊黒!」
「俺のターン」

 このチャンスを活かせるかどうかは俺次第。やつが今伏せたカードは今のターンでドローしたカードだろう。でなければ前のターンで伏せてたはずだからな。推理材料は皆無に等しい。となれば、行くしかないが。

「『終末の騎士』を召喚。その効果で山札から『真紅眼の黒竜』を墓地へ。さらに魔法カード『死者蘇生』」
「この流れは……」
「ほーう」
「蘇れレッドアイズ! そして、レボリューションロード!」

 俺の場の2体が魔法罠ゾーンに置かれ、そこから伸びる進化の道の彼方から、漆黒の海がなだれ込む。地から沸き上がる亡者たちは交わり、龍の形をとり。

「ユニバース召喚、『ナイトメア・ブラック・ドラゴン』!」

 俺の切り札の姿となる。

「来た、遊黒の切り札! これで一気に……」

 しかし、様子がおかしかった。それは龍の形から崩れ、元の幻へと戻り、そして消滅する。ハッと副社長を見やれば、やつは笑いをこらえて小刻みに震えていた。

「……プッ! ククク、アハハハハハァ! アハァン!」
「貴様……!」
「イヒー! 無様だ、実に無様だね終遊黒!ネタばらししてやろうかぁ? 私はトラップ、『混沌の落とし穴』を発動したのさぁ!」

 俺は舌打ちする。あれは2000ライフと引き換えに、光属性か闇属性のモンスターの召喚を無効にし除外する、というカード。決まれば強力なカードだが、その発動条件は厳しい。光か闇のモンスターを使う相手にしか通用しないからな。ということは、おそらく。

「そいつのことは知っていたからね。対策のカードをデッキに入れていたんだよ。未知のカードだか知らんが、召喚する前はただのカード! 出る前に潰せば恐れるに足らず! ウヒャァッ!!」
「ち、やるな。俺はカードを1枚伏せ、ターン終了」

 結果論だが、レッドアイズと終末の騎士で攻撃してからナイトメアを出せば、やつは混沌の落とし穴の発動条件であるライフコストを払えなくなり、ナイトメアの召喚が通っていた。ナイトメアで攻撃する方がダメージがデカいのは事実だから、俺のプレイが完全にダメだったとは思わないが、勘が冴えなかった。いずれにしても、俺もまだまだということか。
 これで振り出し、いや、状況はさらに悪くなるだろう。やつが前のターンで墓地に送ったアークブレイブ、あのカードには恐ろしい能力が秘められている。でなければわざわざ山札の中から選んで墓地に送るはずがない。

「私のターン。お、良いカードを引いたな。おいお前ら、ジャンケンしろ」
「あん?」
「お前らのどっちを先に葬るか迷っていてな。決めさせてやる」
「くだらねぇ。俺たちはどっちも負けねぇ!」
「人の好意は素直に受け取っておいた方が良いぞ。お前らのどちらかは、このターンで確実に死ぬのだから!」
「なんだと!?」

 やつの墓地のアークブレイブが輝きを放つ。ち、やはり。

「このスタンバイフェイズに墓地のアークブレイブの効果が発動する。が、それにチェーンして速攻魔法、『ツインツイスター』を発動!!」
「マズい、あのカードは!」
「手札1枚を墓地に送ることで、魔法罠2枚を破壊する。さて、どれを破壊するか」

 魔法罠ゾーンにあるカードは、遊旗にはタイムカプセルと伏せカードが1枚。俺には伏せカードが2枚。この中から2枚破壊できるが。

「狙いは当然! 終遊黒、お前の場の2枚だ!」
「ちっ!」

 俺のトラップが蹴散らされていく。あれが今ドローしたカードというわけか。なるほど、たしかに良いカードだ。これで俺たちを守るのは遊旗の伏せカード1枚のみ。
 やつは得意げにまくしたてる。

「遊黒、貴様は最初から攻撃の意思が薄かった。となれば貴様らタッグの戦術は明白。遊旗が攻め、遊黒が守る! だがこれでその戦術は壊滅だ!」
「よく喋る野郎だ」
「これで終わりだ。アークブレイブの効果! このカードが墓地に送られた次の自分のスタンバイフェイズ、墓地のレベル7か8のドラゴンを復活させる!」
「ひ、ひどい」
「あー無情。ラビードラゴン、復活! さらに魔法カード『デビルズ・サンクチュアリ』でトークンを出しそれをリリース! 『マテリアル・ドラゴン』をアドバンス召喚!」

 俺のエアフォースで消えたドラゴンたちが、巡り巡って復活する。ラビードラゴンの攻撃力は2950。マテリアルは2400。この2体の集中攻撃を受ければ、たしかに俺か遊旗のどちらかのライフは尽きる。やつがさっき言ってたのはこのことだったのだ

「そ、そんな、あんなに苦労して全滅させたのに……」
「だから言っただろう、順番を決めておけと。だがもう時間切れだ。さて、どっちから消してやるか……」

 やつは俺のトラップにかかったことを少なからず根に持っている。とはいえこの状況なら答えは決まっている。

「お前だ。マテリアルで、遊旗に攻撃!」
「やはり俺か……!」

 当然だ。今の俺は場にカードもなく、切り札もさっき失ったばかり。やつから見て、倒す優先度は低い。対して遊旗はカードが残ってるしタイムカプセルもある。今遊旗を仕留めればタイムカプセルの効果も関係ないわけだから、ここは遊旗で決まりだろう。キレてるように見えて冷静だ。
 マテリアルの攻撃が遊旗に直撃する。

「く、ぐわぁぁっ!!」

 これで残りライフ1600。そして、ラビードラゴンがそれに続く。

「ゲームオーバーだ、小僧!!」
「遊旗っ!」

 思わず叫ぶ。ここまでか。

「……へっ!」

 だが、遊旗は笑っていた。驚いた。やつの目の炎は、この状況にあっても全く揺らがない。
 副社長はせせら笑う。

「虚勢もいい加減にしないと可愛くないぞ。貴様はこれで終わりなんだよ! 敗者に相応しい面をしやがれ!!」
「断る。俺は負けてねぇ」
「あ〜ん?」
「見せてやる。リバースカードオープン!」

 秘められた切り札、それが開かれる。そのカードとは。

「貴様の攻撃モンスターを除去する罠! 『次元幽閉』!!」
「バカが! モンスター破壊効果ならば、マテリアルで無効だ!」

 しかし副社長の勢いに反して、マテリアルはうんともすんとも言わない。なぜか。その答えはただひとつ。

次元幽閉は破壊ではない。除外だ!」
「え、えぇー!?」

 時空の渦に呑まれ、ラビードラゴンは消滅する。これでもう攻撃できるモンスターはいない。副社長はターンを終えざるをえない。

「おのれ〜!」
「これで、勝機は俺たちの手に」
「はぁ?眠たいのか?こちらの場には攻撃力2400のマテリアルがいる。貴様らを仕留めるには十分すぎるモンスターだ!」
「お前はさっき言った。遊旗が攻め俺が守る、それが俺たちの戦術だと。だがそれが、除去カードを俺のトラップに使わせるための罠だとしたら?」
「ま、まさか貴様の狙いは……!?」

 やつは遊旗の場を睨む。そう、タイムカプセルは次のターンで開かれる。

「だ、だが、タイムカプセルで加えるカードを選んだのは第1ターン。この状況にフィットしたカードなど……」
「ダブルアタックは手札のモンスターをコストに発動する。そしてこれは最初の手札にあった。つまり俺は、上級モンスターを墓地に仕込む準備が既にできていた」
「それはサイレントが次の自分のターンまで生き残ってなければ成立しない話だ!」
「俺は信じていただけさ。遊黒をな」
「し、信頼……くだらん!」
「くだらねぇかどうか、その身で確かめろ! 俺が選んだカードは!」

 副社長は歯ぎしりする。信頼、それはおそらく、やつが求めながらも得ることができなかったものなのだろう。だからこそまぶしく、忌々しい。

「魔法カード、『死者蘇生』!!」

 憎しみの闇を突き破り、地の底より。

「伝説を超える新たな伝説。黄金の共に生まれ立つ、俺の切り札! その名はっ!」
「これは、まさか!?」
「『ゴールデン・レジェンド・ドラゴン』っ!!」

 天空めがけて、黄金の龍が駆け上がる。その体から剣が飛び出し、それを掴み、ビシッとポージングを決める。俺はそれに少なからずイラっとしたが、口には出さなかった。終遊黒は大人だった。
 副社長は俺とは違って取り乱していた。ゴールデンレジェンドの攻撃力は4000。マテリアルを遥かに超える。が、それだけではないようだ。

「ご、ごご、ゴールデンレジェンド!? き、貴様、遊旗と言ったな……まさか、性は金色!?」
「だからどうした! 行くぜ、ゴールデンレジェンドの攻撃!」
「待て! そうか、お前が金色遊旗か! ははは、私のものになるはずだったカードがついに」
「ゴールデンディスティニージャッジメント!!」

 黄金の閃光が、マテリアルを破壊し、副社長を吹き飛ばす。

「ぐわぁぁぁっ!!」

 やつは壁に叩き付けられる。大きな音を立て倒れ込み、床にキスする。残りライフは1800。そんな状態になりながらも爆笑し続ける様は、もはや狂気だった。

「キキィィィィィ!」
「うわ、気持ち悪っ!」
「そのカードは私のものになるつもりだったんだ!だが社長が、天臨海が! 私を認めなかった! 私の王としての器を恐れたんだぁ!」
「あー?意味わかんね。このカードは道端でジイさんから貰ったんだけど」
「貰った!? ふざけんな! 私はこれまでたくさん苦労して、それでもダメだったんだぞ! 許さない、許さなぁぁい!!」

 やつは懐から注射器を取り出し、それを自分の腕に突き刺す。注射器に入った液体色のヤバそうさからして、健康のための注射という線は無さそうだ。

「な、なんだぁ!?」
「しゃ、シャドウの力を私の中に取り込んだ……これで、う、うぐぅ!」
「なに?貴様、そんなことをしたらただではすまんぞ! やめろ!」
「俺は許さん、終遊黒、金色遊旗、そして天臨海! この腐った世界を塗りつぶす! うがぁぁぁっっ!!」

 筋肉が膨れ上がり、血管がブチぎれそうな、そんな様子になってしまった。元は180前後くらいだった身長は2mをゆうに超すほど伸び、その背から紫の翼が生え、肌も緑みがかかる。もはや元の面影はかなりうすくなってしまった。

「……ヒヒヒ、イヤッホォォォ! どうだ!? この雄々しき姿!」
「な、なんだよあれ……バケモンじゃねぇか……」
「貧しい頭だ。この素晴らしさを理解できないとは。私は貴様ら愚民とは違う! 私こそが超越者! 私こそが、新世界の王だぁ!!」
「愚かな。シャドウと人間は構造が全く違う。長く保つはずがない、死ぬぞ!」
「嫉妬かぁ?ふ、この私に限ってそんなことはない! 貴様たちに裁きを下してやる。王に歯向かった者は死あるのみ!!」

 やつはデッキに手をかけ。

「ドロォォォッッ!!」

 嵐を巻き起こす。やつはドローカードを一瞥し、それを乱暴に叩き付ける。

「『強欲で貪欲な壺』! 山札の上10枚を、裏側で除外し!」

 やつは荒々しい手つきで10枚を決闘盤から抜き取り、そして、あろうことか、それらを地面に叩き付けた。そして踏みつける。

「お、おい! 何やってんだ自分のカードに!」
「強すぎる力を取り込んだからだ。もはや体の制御がきかなくなっている。このままでは……」
「そして、カードを2枚ドローする! さらに魔法カード『成金ゴブリン』で、金色遊旗に1000ライフ与え1枚ドロー」
「ち、やたらドローしやがる。一体何が来る?」
「ではお待ちかね、ショーの主役の登場だ。世にも恐ろしい殺戮ショーのなぁ! 魔法カードぉ、『龍の鏡』ぁっ!!」

 床が割れ、ドラゴンたちが舞い上がる。それは墓地に眠るドラゴンたち。その魂はひとつとなり。

「デュエルの歴史の頂点に座する、絶対にして最強の竜! この、副社長と共に並び立つ!」

 地が揺れる。なぜか、それは超巨大な龍が現れたからだ。それは確かに質量を持っていた。歩みを進める。

「祝え……新たなる王の誕生を!」

 両手を広げ、龍の召喚を祝福する副社長の元へ、それは来てしまった。最強のパワー、最悪の欲望。重なってはならぬ力が重なる時、この地は地獄に変わる。

「カーモンベイベェ……『|F・G・D《ファイブ・ゴッド・ドラゴン》』!!」

 悪夢の如き龍が、雄叫びを上げた。衝撃波のように、ビリビリと来るものがある。遊旗は思わず叫んでいた。

「な、なんだこの迫力! ソリッドビジョンだろ?立体映像じゃないのか!?」
「質量を持つソリッドビジョン技術はいくつかの次元にある。そしてシャドウはあらゆる次元の力を持つ。やつのモンスターがその力を得たか……!」
「ほーう、これは嬉しい誤算だ。ヒヒヒ、気にいらねぇやつら全員、このドラゴンでぶっ殺す!」
「ふざけんな! カードをそんな風に使うやつは、俺がぶっ潰す!」
「無理だ。なぜならば、ファイブゴッドの攻撃力は5000っ!!」
「な……っ!?」

 遊旗は絶句する。無理もない、元々の攻撃力でゴールデンレジェンドを超えるモンスターなどこれまで出会ってこなかっただろう。その攻撃力が絶対の自信、やつのデュエル観を構成する重要なピースのひとつだったはずだ。その自信が崩れた時こそが、決闘者の真価が試される時。

「……大丈夫だ遊黒」
「遊旗?」
「ゴールデンレジェンドがやられても、俺のライフは残る。まだまだここからだ!」
「……あぁ」

 そして遊旗はその真価を示した。その笑みは力強い。だが、それを嘲る笑みもあった。

「ヒヒヒ! 大丈夫、か。私も舐められたものだな。切り札とは最後の最後に出すもの。つまり今ここが貴様の最後なんだぁ!」
「っ!?」
「魔法カード、『巨大化』ぁ!!」

 ファイブゴッドは叫ぶ。その肉体は膨れ上がり、ただでさえ尋常ではなかったエナジーがさらに増していく。装備魔法カード巨大化は自分のライフが相手より少ない時、装備モンスターの攻撃力を2倍にする。つまり。

「バカな……攻撃力10000っ!?」
「儚い希望だったな。てめぇの貧しい人生じゃ二度と味わえないパワーだ。とくと楽しめぇ!」
「こ、ここまでか……!」
「私からゴールデンレジェンドを奪いやがった、てめぇから消す! 死ねぇっ!!」

 攻撃力10000の息吹が、龍の元で渦巻く。間もなく、その攻撃は放たれる。遊旗にも俺にも伏せカードはない。副社長の勝利は確定的。

「ははははは! 私は神だぁぁぁぁっ!!」

 勝利の喜び。決闘者にとっての至高の瞬間。あぁ、悲しいなぁ。こんな瞬間を邪魔するなんて。

「……ふっ」

 悪夢、冥利に尽きる。

「ゆ、遊黒?」
「な、なんだ?この状況で、何を笑っている!?」
「夢とは欲。夢を叶えるというのは、夢という器に欲を注ぐことだ。欲が強い人間は多くの夢を持つと良い。現実には限界がある。器が満ちた時、次の器に向かわなければ、それは悪夢に変わる」
「はぁ?意味わかんね、んん!?」
「お前は欲の数が少なすぎたようだ。もっと多くのものを見た方が良い。そして、多くの夢を持つが良い」
「ふぁ、ファイブゴッドの攻撃が止まる、なぜだ!?」
「今、お前の罰ゲームが決まった」

 世界から音が消え失せる。

「生まれ変わる季節を迎える。混濁に微睡む花は揺れ、星携えし空はひとつとなり、この世界に朝が届く」

 漆黒の龍が出現する。それは細く、弱々しく、悲しげな声を上げていた。

「ネオユニバース召喚」

 この手の天秤に積み上げられし罪と罰。それらは白い鎖に変わり、龍を包む。縛るのではない、優しき抱擁。やがて、龍は純白の光を放ち。

「見よ。これぞ我が魂、真の姿」

 悪夢の殻より、純白の龍が解き放たれる。生誕の時。天を貫く産声。天使の守護龍、神より賜わりしその名。

「『ナイトメア・ブラック・ネオユニヴァース』」

 綺麗な花のように笑って。星のように輝いて。この世界を羽ばたく。怖がらずに。

「一体何が起こっている……?」
「な、何だ、このモンスターは!?」
「ネオユニバースモンスター。ネオユニバース召喚によってのみ、相手ターン中にエクストラデッキから特殊召喚できる。その召喚条件は、通常モンスター1体以上と効果モンスター1体以上。加えて、ナイトメアブラックが墓地か除外ゾーンに存在しなければならない」
「召喚条件は元のナイトメアブラックに似てるけど」
「違いは、レガシーをフィールドだけでなく墓地除外ゾーンからも選べること。その代わり、相手モンスター1体の元々の攻撃力がレガシーの攻撃力合計を超えている必要がある」

 墓地から真紅眼の黒竜と終末の騎士を魔法罠ゾーンにレガシーとして置き、ネオユニヴァースは召喚される。この2体の攻撃力合計は3900。それより大きい攻撃力のモンスターが相手の場に存在する必要があったが、それも今ではクリアされている。よって、ネオユニバース召喚は可能となった。
 俺の説明を理解し、副社長はうなる。

「ということは、ファイブゴッドの召喚がトリガーになったのか……!」
「過ぎたる欲は身を滅ぼす。始まるぞ、お前の悪夢が」
「ふざけるな! そんな痩せ細ったドラゴンにどれほどの攻撃力がある!?」
「悪夢の体現者たるネオユニヴァースに実体は無い。このカードは選んだモンスターの元々のステータスをコピーする。選ぶのは当然ファイブゴッド」
「つまり、攻撃力5000!? すげぇ!」

 今ファイブゴッドの召喚がトリガーになったと言ったが、よく考えたらルール上は遊旗も相手プレイヤーとして扱うのだから、ゴールデンレジェンドが出た時点で召喚は可能だったな。ま、どうでもいいか。

「ネオユニバース召喚がバトルフェイズで行われた時、相手はネオユニバースモンスターに攻撃しなければならない。さぁどうする?」
「ククク! 驚かせやがって、結局ファイブゴッドに勝てないじゃないか! ならば望み通り、貴様から消してやる!」
「ゆ、遊黒っ!」
「消える?違うな。これから始まるのだ、お前の悪夢が」
「ほざけ! ファイブゴッドの攻撃!」

 新たなモンスター召喚によって中断されていたファイブゴッドの攻撃が、再び始まる。今度こそ放たれた、最強の息吹。

「ファイブゴッド・バースト!!」

 5色の嵐が吹き荒れ、5色の光がまき散らされる。それはシャワーのように降り注ぎ、副社長の、勝利への確信に満ちた表情を照らし出す。

「やったぁ! 私の勝ちぃ!」
「真紅眼の黒竜のレガシーフォース発動」
「なに!?」

 純白の龍は輝き、その光の密度が増していく。龍の背を押すものがあった。それは可能性宿し真紅の眼。

ネオユニヴァースは他のユニバースが与えるレガシーフォースをコピーできる。ナイトメアブラックのそれをコピー」
「ってことは、戦闘する自分モンスターの攻撃力が2倍。つまり!?」
ネオユニヴァース、攻撃力10000」
「……バカな……!」
「悪夢フルコース」

 ここに生まれる、もうひとつの最強。そして放たれる最強の一撃。

「|悪夢終幕《ナイトメアフィナーレ》」

 純白の嵐と5色の嵐。それらは交わり、宙に架かる虹となる。虹色に輝く時の中、ドラゴンたちは静かに滅びゆく。主のためにその身を散らしてゆく。
 最期の花びらが、宙に舞う。

「こ、こんなこと、こんなことあっちゃあダメだぁ!」
「ありがとうネオユニヴァース。眠るがいい」

 花は、消えた。ファイブゴッド、ネオユニヴァース、攻撃力10000同士の2体が、相討ちとなって破壊される。
 副社長は膝を落とし、アリみたいに小さい声でターン終了を告げる。

「すげぇ、ファイブゴッドを真正面からぶっ倒した!」
「俺のターン。カードを伏せて終了。さぁお前のターンだ」
「き、キキ、キキィ……!」

 副社長のターン。やつのライフは1800。ネオユニヴァースの出現によりゴールデンレジェンドは生き残った。次の遊旗のターンまでに何らかの対抗策を講じなければ、勝負は決まる。そのプレッシャーからか、やつの手はガタガタ震える。

「わ、私の、ターン?」
「踏みにじられたお前のカードたち」
「っ?」
「お前のデッキに信じる心が残っているなら、逆転のためのカードを引かせるはずだが」
「……ど、ドロー」

 やつはドローカードを見る。その顔には先ほどの勢いはなく。

「……ターン……エンド……」
「俺のターン! ゴールデンレジェンドの攻撃!」
「ヒっ!」
「ゴールデンデスティニージャッジメント!!」

 審判の時。黄金の光が敵を呑み込み。

「う、うわぁぁ! 完敗だぁぁっ!!」
「へへ、遊黒っ!」
「ふっ」

 ハイタッチ。デュエルは俺と遊旗の勝利で決着した。

 


「こ、こんなこと、こんなことあっちゃあダメだぁぁ! せ、せっかく天新海を始末」
「せっかく、誰をどうしたって?」
「あ、あなたは!?」
「む?」
「えぇー!?」

 俺たちが見上げた先には、亡霊が突っ立っていた。その亡霊に名を付けるとすれば、そう、天新海!
 副社長の足下に転がっていた亡骸はフッと消える。それはデュエル終了時にモンスターが消えるのと同じ消え方だった。

「しゃ、社長、ど、どうして!?」
「自分の死体というのは見てて気分が悪いなぁ。ソリッドビジョンとはいえ」
「え、えぇ!? で、でも確かに感触が」
「質量を持ったソリッドビジョンか。ふ、他次元の力をもう使ってるとは。さすがだな新海」
「天使に褒めていただけるとは光栄だ。まだ発展途上だがね」

 絶句する副社長とは対照的に、天新海は愉快そうに笑っていた。

「さて。副社長、いくつか聞きたいことがあるのだが」
「ひ、ヒ、殺される……殺されぇっ」
「黙れ」
「ヒッ!」
「君が放ったシャドウに襲われた女性はどうなった?」
「た、たた、他次元に飛ばされました。か、神召喚のための生け贄となるでしょう」
「そうか。君は無論クビだし制裁も受けてもらいたいが、先約があるようだからね。では謹んで、罰ゲームとやらを見物するとしよう」
「え?」

 俺は副社長の前に立つ。どうやら新海への恐怖のあまり、俺との約束を忘れていたようだ。
 デュエルの敗者には罰ゲームが与えられる。その時が来た。

「悪夢を与える。少し長い、な」
「あ、う、助けて、助けてください社長ーっ!!」
「運命の罰ゲーム!」

 やつを指だし、告げる。

「|GREED《グリード》 ─欲望の幻像─!!」

 やつの目に夢が映る。それは悪夢。

「う、ほげぇぇぇぇぇっ!!」

 やつの肉体からシャドウの力は失われ、平常時のそれに戻る。俺の処置がなければあと数分で死んでいただろうな。ふ、罰ゲームに救われるとは皮肉なものだ。
 この特殊な眠りは半日ほど続く。その間、俺なりに考えた、欲望のはけ口の開拓を助ける夢を見る。ただ、残念ながら俺の見せる夢は必ずショッキングな映像を含んでしまうので、見てる間は少しばかり辛いだろう。まぁ頑張って欲しい。
 俺が副社長の今の状態などを伝えると、遊旗は少し意外そうな顔をした。

「えっと、じゃあ半日立てば元通り?何もかも?」
「そうだけど、なにか?」
「いや。ただ、もっと残酷な罰なのかと思って。だってこいつすげー悪いやつだったし、お前も怒ってただろ」
「別に悪いやつだとは思わなかったが」
「へ?あれが?」
「さっきも言っただろう。欲の注ぎ方が間違っていたのだと。むしろあの素直さは評価できるくらいだ。目を覚ましたら人助けに目覚めるかもな」
「ま、マジでー?」

 ハテナマークを浮かべる遊旗へ、新海が語りかける。

「ははは。遊旗、終遊黒に俺たちの価値観は通用しないよ。そいつは人間じゃなくて天使だからな」
「て、天使?人間じゃ、えぇ!?」
「そういうことだ。善悪にはあまり関心がなく、その魂を見定める。ま、お前はかなり人間に寄っているようだが」
「俺が人間に?ふ、父さんにあまり冗談をいうんじゃない」
「お前は俺の父親ではない。俺の父の名は天臨海。この世界のデュエルの創造主であり俺の前の社長。母の死後、会社を飛び出しそのまま行方不明になっている。ま、遊旗にゴールデンレジェンドを渡したのは恐らくやつだろうから、案外近くにいるかもだが」
「そんなことはどうでもいい」
「だろうな」

 その時だった。ファイブゴッドのカードが禍々しい光を放ち、どこかへ飛んで行った。

「あ、えぇ!?」
「我が社に封印されしカードか。あれは持ち主の心を映し出す。次の持ち主を探して旅立ったか」
「な、なるほど!」

 新海がドヤ顔でそれっぽい解説をし、遊旗がそれにウンウンと頷く。バカの会話って感じだった。
 一通りビックリし終えた後、遊旗はセキュリティーに応援を呼ぶ。副社長は様々な事件の参考人および被疑者として連行されるのだろう。
 遊旗は新海へ向かい。

「お前も署に来てもらうぞ。殺人未遂の参考人としてな」
「殺人未遂?ソリッドビジョンをナイフで刺すのが殺人未遂?ははは、遊旗は相変わらず冗談が上手いな」
「そ、それ以外にも聞くことがあるんだよ! ち、心配して損したぜ!」
「心配してくれてたのか?ふふ、それはありがとう。さすがは我が友だ」
「このハゲ! ろくでなし! いいから来い!」
「天新海は留守です」
「あぁ?」
「これから旅行なのでね。ただの旅行じゃないよ、次元旅行だ」

 新海の後ろに、ファンタジー映画に出てくるみたいな扉が出現する。やつがそれを開けば、その先に広がるは漆黒。

「見ての通り、他次元へ行けるゲートだ。俺はこれから5D’sの世界へ行く」
「た、他次元!?」
「あぁ。このゲートはなかなか厄介でね、強大なデュエルエナジーがないと動かない。だから、我が社の近くで激しいデュエルをしてもらう必要があった」
「俺たちのさっきのデュエルか……!」
「左様。ちなみに一度に使えるのは2人までで、今使えば明日の今ごろまでは使えない。改良の余地ありだ」

 やつの説明が終わると同時に、実験室のドアが開き、新たな客がこの空間にやってくる。

「はははヤッホー! あ、新海くんいたよシルバーちゃん!」
「わぁ、ほんとだ! 斬さんスゴーい!」
「あはははは! 聖天斬、聖天斬でございます! お困りの際は、聖天斬にお声がけ下さいませ〜!」
「そうかい。じゃあ斬くん、早速頼みがあるんだが」
「お、新海くん。なにかなー?」
「そのうるせぇ口にチャックしろ!」
「やだ」
「な、なにぃ〜!?」

 ブチぎれてる新海の元に、メイドの格好をした少女が駆け寄る。たしかシルバーと言ったか。おっぱいがデカい。し、身長のわりにはなんだからね!

「ま、まぁまぁ。落ち着いてください新海様」
「ちくしょうあの野郎、あの野郎〜!」
「新海様! 斬さんは女性です、野郎じゃありません!」
「あ、そうか。す、すまない、さっきから無礼な発言を」
「はははヤッホー。ま、気にするなでござるよ」
「……ありがとう」

 新海と斬は微笑み合う。なんだこの時間、って感じだが、ひとつ分かったことがある。それは、斬のやつが新海をあまり良く思っていなかったということだ。斬はどんな相手にも変わらず明るく接する。だがさっきのやつの目には少し険があった。ほんの些細なものだったし、たぶん俺以外のやつは気づいていないが、他の人間に対しての目とは違ったのだ。
 でも今は普段通りの目に見える。

「シルバー、俺はこれから5D’sの世界へ行く」
「は、はい。お、お気をつけて」
「お前にも来て欲しい」
「え?」

 俺たちのデュエルエナジーで動くゲートとのことだったが、副社長が俺たちをここに呼ぶタイミングは副社長にしか分からない。つまりゲートがいつ使えるかは新海には分からなかった。だから突然の話になってしまったわけか。

「お前の都合が悪いなら明日でもいいが、どうだ?」
「い、いえ、私は今すぐでも大丈夫です! で、でも」
「でも?」
「ど、どうして私と一緒に?もっと良いサポーターもいるのでは?」

 彼女は突然の話になったことよりも、自分が同行者に選ばれたことに驚いているようだった。当然の疑問だ。
 新海は答えを考えているようだった。そして。

「……俺はこれから夢を叶えに行く」
「は、はい」
「夢ってのは叶えることも大事だが、もっと大事なことがある。それは、叶った瞬間を誰に見せるかだ。誰と分かち合うかだ」
「……」
「その時を想像した時、俺はお前が一番良かった。ま、それだけの話」

 そっけない口調だったが、新海の頬はうっすら朱に染まり、目は泳ぎ気味だった。すごく殴りたい。ていうか俺たちは何を見せられているんだろうか。
 シルバーがコクンとうなずく。

「……私、その、とっても嬉しいです」
「じゃ、じゃあ!?」
「はい! 私、5D’sの世界に行きます! ゴートゥゲザーです!」
「おぉー! ありがとう、ありがとう〜!」
「えへへ。私がしっかりサポートしてあげるからね」
「あぁ!」

 そこで、シルバーの表情は一変する。忘れていたすごい重要なことをハッと思い出したみたいな、そんな様子だ。唇を噛みうつむく。しかし喜びのダンスを狂ったようにやっている新海はそれを見てはいない、ように見える。彼女はすかさず表情を戻し。

「では、お供させていただきます」
「うん。じゃあ行くか」

 うっとうしい会話が終わり─終遊黒だけに─ふたりはゲートに向かって歩き出す。そのまま、ゲートの中へ消えていった。
 遊旗は目の前で起こった出来事を処理しきれてない様子だった。しかし気の毒だが俺もすぐ行かなければならない。

「遊旗、頼みがある」
「な、なんだよ?」
「今日ここで起こったこと全て。マスターに報告しておいてほしい」
「別にいいけど、なんで?」
「俺は今すぐに5D's世界に行かなければならないからだ。向こうとこちらでは時間の経ち方が違う。こうしてる間にも一年くらい経ってるかもしれない。新海が何かやらかしてから行ったのでは遅いからな」

 遊旗は俺の説明をなんとか理解してくれたようだ。その上で、根本的な疑問を告げてきた。

「で、でもさ、あのゲートってのは明日の朝まで使えないって言ってたぜ?」
「俺は自力で行く手段がある。斬にもな」
「そ、そっか」

 とどのつまり、明日の朝の分は余ったということだ。ここで俺は遊旗の思考が読めたので、一応釘を刺す。

「まさか、お前も来るつもりか?」
「……そ、それは」
「やめておけ。特別な探し物があるならともかく……もしかして前言ってた復讐の相手か?」
「ギクっ」

 遊旗はセキュリティーだ。やつが見つけられない相手であれば、別の次元に飛んでいる可能性はあるな。でも、いくらなんでもそこまでしますかー?って感じだ。なので聞いてみることにした。

「お前、そいつに何されたんだ?」
「……」

 やつはうつむく。わずかに見えた顔は、真っ赤に染まっていた。なんで?

「う、奪われた……」
「?」
「奪われたんだ……俺の……くちびる……!」
「うん?」

 斬が会話に参加してくる。

「おー、遊旗くんも悲しい宿命を抱えていたんだねー。そっか、アールちゃんがなぁ〜。めっちゃ美人だよね」
「う、うん。やわらかくて、すごくあたたかかった」
「気持ちよかった?」
「……ま、まぁな」

 俺の心配を返しやがれ。それしか言うことはない。斬が復讐の相手のことを知っているようで遊旗がそれに食いついていたが、もうどうでもいい。

「斬、お前昨日も言ってたな。アールお姉ちゃんを知ってるのか?」
「お姉ちゃん?」
「はぁ!?俺があのくそったれをお姉ちゃんなんて呼ぶか!」
「そ、そうだね、その通りだ。まーボクもあんまり彼女のことは知らないんだけどね。彼女なら5D’sの世界にいるよ」
「ほんとか!? よっしゃあ、俺も行くー!」

 明るい雰囲気ではあったが、遊旗の表情は少し固い。他次元に行くこと、その危険を少しは理解しているようだな。であれば、俺が言えることはただひとつ。やつに歩み寄り。

「遊旗、お前が5D’sの世界に行くのは勝手だ。けどそうなった場合どうなるかは分かるだろう。1日ある、よく考えることだ」
「……あぁ」
「俺はもう行く。斬、お前は?」
「ボク?ま、少し散歩でもしてから」
「そうか」

 斬は去っていった。それなりの付き合いだが何を考えてるのかよく分からん。
 俺は最後に遊旗を見やる。

「俺はもう行く。マスターへの伝言、頼んだぞ」
「あぁ、任せとけ。じゃあな」
「うん。来るにせよ来ないにせよ、お前は何かと闘い続けるのだろう。健闘を」
「ありがとう。お前に会えて良かったぜ、遊黒」
「……ふ、少しは素直になったじゃないか」
「う、うるせー」
「お前とのタッグ、悪くはなかった。またいつか、デュエルしたいな」
「……あぁ!」

 俺たちは微笑み、そして別れる。遊旗が副社長を連れて去った後、俺の体は消えていき、異なる世界へと動き出す。
 ふと思い出し、懐から小さな黄金の天秤を取り出す。それは遠い昔の贈り物。何か特別なことをする度にこれに向かい祈りを捧げるのが、いつしか習慣になっていた。

「……全ては貴方のために」

 終遊黒は、5D’sの世界へと旅立った。


──そして──

「ははは、ヤッホー、ヤッホッホー」

 聖天斬はゆっくりと歩く。その背後から猛スピードで迫る物があった。

「超融合神が復活するまでには間がある。今GXの世界に行くのはダメだな。ふふふ、世界を移動するのに順番が決まってるというのは面倒だ」

 それは紫の輝きを放っていた。だが斬に近づくにつれて色が変わっていき。

「新海にシルバーちゃん、そして終遊黒。よし、彼らに付き合ってみるとするか」

 斬は手を上げ、背を向けたまま、飛来するそのカードを掴む。それに宿るは混沌の力。

「さぁ、パーティータイムだ」

 その細指が描けば、漆黒の扉はそこに現出する。それに身を任せ、この世界から消えた。

 

 

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